(……また来てる……)
誰って、そりゃあもう。
「……っ、今日もまた急なご訪問で。あの、何かトラブルでも……」
「私用です。お気にならさず」
――さっちゃんだ。
午前中の忙しさが少し引いて、誰もがほっとして気が緩むようなこの時間、さっちゃん――桐野・兄がお出ましになり、みんな慌てて真剣にパソコンに向き直った。
「気にするなとか無理だろ。迷惑だから、本社に戻って。暇かと思われるよ」
「お前があっちに来てくれたら、手間が省けるんだが」
弟溺愛が過ぎると思ったけど、もしかしてそれが目的なのかもしれない。
亜貴くんのことがバレた今、遠慮なくここまで出向いて急かしてるのかも。
「……ちゃんと考えてるよ。でも、言ったよね。彼女にまでプレッシャーかけるのは許さない。それどころか、今ので元々あった噂や陰口が拡大する。自分の発言がどれだけ影響するのか、あんたこそもっと考えろよ。……いや」
(……まずい)
「……分かってて言ってるんだろ」
亜貴くんが、お兄さんにそんな呼び方をするのは初めてだ。
もちろん、家族だけではそうだったのかもしれないけど。
「……っ、亜貴くん。私なら大丈夫だから」
「……ごめん。でも、そんなの大丈夫じゃなくていいんだ。大丈夫になっちゃいけないんだよ。俺は、依花さんにそんなことさせたくない。させない、のに」
そこに、亜貴くんの意思は反映できないのかな。
恐らく、今まで反映できなかったから、意思を持つことをしなかったんじゃないのかな。
家族間のことに、私が口出す権利はないのかもしれない。
「亜貴くんが決めたらいい。自分の選択することで、誰も喜ばせようとしなくていいんだよ。……コーヒー買ってくる」
「……っ、あ……待って。俺も行く」
それにしても、過剰なほどの干渉だ。
溺愛と言うより、束縛に近い。
本当は優しくて誠実な亜貴くんには、相当なプレッシャーで息苦しかったんだと思う。
支えになりたいけど、どこまで求めてもらえるだろう。
手を差し伸べてるつもりが、お兄さんと同じことをしていないだろうか。
人懐こいわんこも、意地悪な後輩キャラも、みんなの理想どおりの王子様も。
全部脱ぎ捨てた亜貴くんを、どうしたら――……。
『幸せ』
幸せは、小さなものから感じ取れた方が幸せだって言うけど。
彼のその基準があまりに低すぎて、必ずしもそれは正解だとは限らないんじゃないかと泣きたくなってしまう。
――どうしたらもっと、亜貴くんを幸せにできるだろう。



