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クスッと笑う音がすごく近くから聞こえて、それだけで反応してしまう。
「な、なに……」
「ううん。こんな可愛いのを好きな子が買ってるところに遭遇した、その男の心境を想像して優越感に浸ってただけ」
「か、買ってるとこ見られたわけではないと思うんだけど。あと、別にもう好きではないだろうし」
ある意味、あの人にとっても特別な出来事だったというだけ。
「やーだ。約束どおり後で留めてあげるから、もう少しこのまま堪能させて」
喋りながら散らばったものを手繰り寄せようとする手をやんわり取って、そっと自分の腕に仕舞うとそのまま包み込むように抱きしめられる。
(……や、約束では……)
……なかったけど、訂正する気もない。
口調は軽かったけれど、額へのキスはゆっくりで、頭から背中を擦られるのはそっとで。
労われたのか、慰められたのか、感謝されたのか。
きっと、そのどれもなんだろう。
真剣な愛情が伝わってきて、黙って受け取っていたかった。
「……あのね。私、あれから、いろいろ調べてみたんだ」
確かにあの日、真っ赤になるくらい怒ってたけど、スッキリした後は意外と冷静になれた。
「そしたらね、数は少ないかもしれないけど、今でも可愛いデザインの着やすいブラ、売ってたよ。私が調べたり、探したりしてなかっただけ。それで勝手にイライラしたり、悲しくなったりしてた」
「……それは、悪いことじゃないよ。欲しいものをわざと遠ざけて見えなくする気持ちは、俺にも分かる気がする。今俺が見えるようになったのは、依花さんのおかげだし……もしかしたら俺も少しは、依花さんの役に立てたらなら嬉しい」
「少しじゃないよ。亜貴くんのおかげ」
「そっか。……よかった」
自分と少し合わないものも、合わせられないものも。
前なら目を背けていたけど、今ならその存在を受け入れられる。
ただ、自分にもフィットするものを作りたいだけ。
「それに、その頃はもっと少なかったんじゃないかな。調べるのも、今程簡単じゃなかったと思うし」
「ん……ありがとう、亜貴くん」
辛くないとは言わないけど、一歩引いて見ることができるのは、彼がそう言って側にいてくれるから。
「そういえばさ。兄貴が、依花さんのこと両親に話しちゃって。いつか、依花さんの気持ちが落ち着いたら会ってくれる……? 」
「私はいつでも。失礼がないかは不安だけど……」
反応を窺うように見つめられて、できるだけ間を置かず答えたけれど、やっぱり不安だ。
彼氏の家族に会うのは……あれ以来だし、あれはカウントせず初めてでいいと思うし。
私にとっては、ロイヤルファミリーくらい遠い存在に思えるほど、格差がありそう。
「堅苦しいことは何もないよ。俺もちょっと話したけど、依花さんは天使か女神みたいな存在になってる」
「なんで……!? そ、それは尚更会いづらい……がっかりさせちゃうと思うし、亜貴くんに嫌な思いさせないといいけど……」
一体どうして、そんなことに。
お兄さん、私に恨みでもあるんじゃないだろうか。
「絶対そんなことないし、そう言われたらそれで合ってるから訂正しないでおいた」
「な……」
「俺みたいなのが本気になっちゃうような……俺みたいなのを愛してくれる天使。間違ってないよ」
「……最初からして間違ってる。亜貴くんは、そんな人じゃない」
キスで言いくるめられたりしないと首を振ると、わざとらしく困った様子で首を傾げた。
「そう言ってくれること自体、天使だけどね。心配しないで。言ったでしょう。気が合うと思うよ。それに、無理して会うこともないから」
今度は、まるで今までの話を忘れさせるように、少しずつキスを深めてくるけど。
(望むところだ。…………怖いけど)



