翌日。
奇しくも週末に事が露見したのは、いいのか悪いのか。
ともかく、終業直後、不自然なくらいニコニコした亜貴くんが私のところへやってきた。
「依花さん、一緒帰ろ? 」
「…………なに? 」
一緒に帰ろうの返事には相応しくなかったけど、寧ろ不機嫌さすら伝わる笑顔に、思わず後ずさる。
「ん? せっかくの週末、一緒に過ごしたいだけ。あと、ちょっとお話がある」
「……分かった」
(……だけ、じゃないじゃん……)
そう思ったけど言わなかったのは、軽い調子なのは声だけで、改めて見ると表情が固かったから。
(何だろう……私、何かしたっけ)
いや、したんだろう。
亜貴くんにとって、嫌なことなのは確実だ。
今までそんなこと言われたことなかったから、亜貴くんは寛容な方だと思う。
その彼がこうなるなんて、きっとちょっとやそっとのことじゃない。
それなのに、まったく心当たりがなかった。
「……ごめん。怒ってないよ」
「……え……」
会社のエレベーターの中でもぐるぐる考えていた私の思考を遮り、亜貴くんが一呼吸置いて言った。
「焦ってるだけ。家に着いたら話すよ。うちでいい? ごめん、気になるだろうけど……ここじゃね」
「うん……」
謝るのは私の方だと思うのに。
亜貴くんはやっぱり優しくて、すごく申し訳なかった。
・・・
亜貴くんの家、恐らくお泊まりになると思うのに、ドキドキよりも嫌な緊張が強い。
もしかしたら、すごく不快な思いをさせていて、家に呼んでくれたものの帰ることになったらどうしよう。
「ごめん。不安にさせて。話聞くまで緊張するだろうから、先に言うね」
「う、うん。お願いします……」
いっそ謝ってしまいたかったけど、それは卑怯だと思って堪える。
告げられたのは思いも寄らないことだから、尚更それでよかったとは思う……けれど。
「……あのさ。その様子だと知らないみたいだけど、噂になってるよ。……この前、モールで男と話してたって」
「……は……」
何だったっけと記憶を繋ぐと、亜貴くんはかなり言葉を選んでくれたんだろうと分かる。
「……それ、正確には……」
「……ランジェリーショップで、彼氏以外の男と頰を染めて何か話し込んでた」
「なっ……」
(〜〜そりゃ、真っ赤になってたかもしれないけど……!! )
あれは、怒りからくる症状で。
まさか、そんな、男性と下着を選ぶのに照れてたと……それも、亜貴くん以外の人と。
「……例の元彼。敵情視察した後に偶然会って」
「……ん。視察は、そんなことだろうと思った。でも相手は……そっか。その場にいれたらよかったな」
「ごめ……」
人差し指が、唇の隙間を縫うように這う。
そんなことをされたら、それ以上言わずに閉じるしかなくて。
やっぱり、謝罪は受け取ってもらえなかった。
「ううん。出掛けるのを制限するつもりも、できるわけもないし。……でも……欲を言えば、後からでも教えてほしかったな。辛かったでしょう。傲慢かもしれないけど俺、依花さんを慰めたかった。癒やしてあげたいし、安心させてもあげたい。俺がいるよって伝えたい。……そういうの、依花さんには不要? ……それとも」
――俺は、まだその段階にいないのかな。……俺じゃ、ダメ……なのかな。
「……っ、違う……!! 」
でも、ダメだ。
受け取ってもらえないのを押しつけるように謝るのは、許してもらおうする身勝手さだと思う。
それでも、それだけは訂正しなくちゃ。
「言わなかったのは、亜貴くんの存在が小さかったからじゃない。あの人が私の中でほぼいなくなって、いつの間にか、どうでもよくなってた。昔の傷より、亜貴くんのことを考える時間の方が、ずっと長くなってたから」
もうとっくに、私は亜貴くんに癒されていた。



