Secret mode〜後輩くんの見てはいけないトコロを見てしまいました〜






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あの時は熱で朦朧としていたから恥ずかしく思う余裕もなかったけど、いざ好きな人が部屋に来るとなると何だか落ち着かない。
でも、いざ話し始めると、気まずさはちっともなかった。


「着脱がしやすいの、か。毎日のことだもんね」

「うん。それに、単純に大変とか面倒っていうのもあるけど、できなくてへこむっていうのもあると思うんだ。そういう精神的ダメージも減らしたい」


ちょっとしたことかもしれない。
でも、毎日悲しい思いをする。
積み重なるダメージは、慣れてもきっとなくなることはないから。


「怪我してなくても、他も苦手な人いるかもしれないよ。年齢も様々かも」


そっか。
年齢的な理由や、病気で上手く腕を動かせない人もいるのもかも。


(きっと、私だけじゃないんだ)


「周りに相談しにくい内容かもね。ネットで買うのもいいけど、もっと普通に店舗でも品揃えがあれば楽しいのかも。なんか、 “かも” ばっかりになってごめん」

「ううん。怪我とか既往歴とか、年齢性別問わず個人的なことだもん。私にだって、かも、だよ」


ネットで買うのも便利だけど、私の場合は着やすさしか見てなくて、「これでいいや」になりつつあった。
気に入るのが存在しない前提だったけど、もっと選択肢が増えれば買うのも選ぶのも、出掛けるのだって楽しくなるかもしれない。


「あとね、こういうのって可愛いデザインが少ないのもあるし、生地がスポーツ用みたいなのが多いんだ。もうちょっと特別感っていうか、そしたらセットで合わせやすいっていうか。その……」


――特別な日用、とか。


「ご、ごめん。変なこと力説して」

「そんなことないよ。発案は大事だし、そのとおりだと思うし。依花さんのこと知れて嬉しい」

「……と、というか。何のお構いもしませんで……何か飲み物持ってくる」


明らかに様子がおかしいのに、亜貴くんは笑うだけでつっこんでくれない。


(仕事の話ってことで、気にせず続ければよかった。……それにしても)


――特別な日、か。

もちろん、自分の居心地や好みは大事で、ベースとしてある。
でも、その……「見られても可愛いの」を否定するつもりもないし、私にだって気持ちは分かる。
それが好きな人なら尚更で、気に入ったものを着けたいだろうことも。
今着けてるのだって自分の意思で選んだし、嫌いじゃないけど、「亜貴くんとのその時」には、もっと――……。


「依花さん? 」

「あ……うん」


大丈夫かな。
変な顔してないかな。
深呼吸してから部屋に戻ったはいいけど。


(……飲み物、持って来るの忘れた……)


「いいから、こっちおいでよ」


言い訳も「ごめん、何やってるんだろう」みたいな笑ってごまかすことすらできない私に、亜貴くんは説明を求めなかった。


「依花さんはすごいよ。絶対商品化するし、するまで依花さんは諦めないことも知ってる。そんな依花さんに憧れるし、格好いいと思う。でもね」


――きっと、全部、バレてるから。


「もしかしたら、依花さん自身は納得いかないかもしれないけど。俺は、何を身に着けてようと依花さんが好きだよ。変な意味じゃない……こともないかもしれないけど、それも含めて言ってる」


後ろから抱きしめてくれたのは、きっと気を遣ってくれたんだと思う。


「俺にとっては、それよりも依花さんが望んでくれるってことの方が重要。だから、そこで悩まないでね」


亜貴くんは、そんな人じゃない。
これまでの彼氏に言われたこととか、この前の佐野さんの発言とか。
そんなふうに思ったりする人じゃないと信じてるからこそ、「ちゃんと」したかった。


「……うん……」


その表現がおかしいって思う私もいるけど、やっぱり可愛いくしていたいという私も同時に存在して、葛藤する。


「さすがに俺も、そこまで子どもじゃないからさ。言ったみたいに、特殊な家庭環境だったのもあるし、今更それでどうこうはならないから。中身が依花さんってことに煽られるだけ」

「……それはどうだろう……」


中身の問題と言われたら、余計に不安になる。
経験豊富な亜貴くんが、私でどうこうな感じになるとは思えない。


「依花さん、全然分かってないね。……俺、結構我慢してるよ。それも、かなり前から」

「……えっ……。う、嘘だ」


お世辞だと思った。
不安にさせない為の優しさだって。
なのに、その目は――……。


「……急がなくていいよ。依花さんの気持ちが向くまで、ちゃんと待てる」


――私ですらそう思えないほど、甘く、熱っぽい。


「でも、伝えとく。俺は、依花さんが好きで、こんなの初めてでどうしていいか分からないくらい、あなたのことが欲しい。それだけ、知っておいて。……いきなりこんなこと言って、ごめん」


すごい勢いで首を振る私に「酔うよ」って、笑う。
でも、そこは否定しておかなくちゃ。
だって、まったく「いきなり」じゃなかったから。


「亜貴くん、私……」


私だって、亜貴くんが好き。
だから、その気持ちが向く「いつか」は、亜貴くんが思うよりずっと近くて。
私は、それが今でもいいと本気で思ってる。


「流されないの。 “俺ならいい” も嬉しいけど、依花さんが “俺としたい” なら、もっと嬉しい。……その時に教えて」


覚悟じゃなくて、希望がいいと。
そう言ってくれる亜貴くんが、本当に好きだ。
振り向くと唇が重なって、そっと指先が捕まって気づく。

私が震えたのを亜貴くんは見逃さず、気づかないふりもしないでくれたんだ。