それから約束どおり、何度かデートを繰り返した。
昨年分のプレゼントはどうにか辞退して、最終的に桐野くんが折れた。いや、
『じゃあ、その時までにもっと特別な関係になれるように努力しますから』
という宣言に、私の方が折れたのかもしれない。
プレゼントの内容はともかく、その時まで一緒にいられるようにしたいのは、私も同じだからいいんだけど。
「野木さん、ちょっと」
部長が怪しすぎるくらいコソコソと、私の席まで姿勢を低くしてやってきた。
「……何でしょうか」
嫌な予感。
「いや……その、来客があって。会議室にお通ししてるから、よろしく」
コソコソ感が目立ちすぎて、ちっともコソコソできていない。
幸いなのか狙ったのか、桐野くんは外出中だ。
(あり得ないのに、こんなに腫れ物に触るみたいな扱いされる理由を一つしか思いつかないのが……)
来客の正体はあの人しかあり得ない……すごく、あり得ない話だとしても。
・・・
「お仕事中に呼び出してすみません。改めまして、亜貴の兄の皐です」
想像どおり、会議室にいたのは御曹司――彼のお兄さんだ。
名刺を取り出そうとした指を止め、少し迷って渡さないことにしたのだろう。
肩書を思えば簡略的だけど丁寧な挨拶をされ、私も氏名だけ名乗る。
「あの……それで、ご用件は」
( “ 君なんて、弟に相応しくない! ” ……とかかな)
桐野くんに近づく女性なんて、今までもたくさんいただろうし。
個人的に呼び出されるなんて、それしか考えられない。
「いえ、少し心配になったものですから。亜貴が、強引なことをしたんじゃないですか? ほら、始まりがめちゃくちゃだったって」
「ああ……あれは、その。最初、私は桐野くんにいい印象がなかったので、という意味です」
まさか、あれを全部話す必要はないし、するつもりもない。
それより、一体何だっていうんだろう。
本気で私が心配なんて、そんなことあるはずもないし。
「そうでしょうね。失礼ですが、それが心配で伺ったんです。亜貴は人懐こいようで、誰かを好きになったりする気持ちが欠落しているんですよ。これまでも、そういった女性を何度も見てきたものですから。でも、貴女はこれまでのようなタイプでもないように見えて……心配なんです」
(……欠落? )
何を言ってるんだろう。
この人、本当にお兄さんだよね……?
「お互い割り切れていれば、私が口を出すことではないんですが。貴女は、これまでの女性とは違うようだから」
怒りを抑え込むのに集中していて、手がこちらに伸びてきたことに気づくのが遅れた。
「……っ、ふざけないでください」
よかった。
振り払えた。
震えていたことに気づかれただろうか。
それでもいい。
だってこれは、怒りからくる震えなのだから。
(痛っあ……)
勢いづいた反動で腕が思った以上に振れ、脳内にその言葉が浮かぶ。
でも、口には出さなかった。
今度は、耐えられたんだ。
「心配なんて嘘ですよね。女性なら誰でも、それを信じると思いました? 馬鹿にしないでください。何がなさりたいのか分かりませんけど、私のことが反対ならもっとまともな方法を使ったらいかがですか。……弟が傷つく方法を取るなんて信じられませんし、不愉快です」
(痛くない、怖くない。大丈夫)
『……って言いすぎ。俺の前で、大丈夫って言わないで』
今は、桐野くんがいない。
だから、言う。私は、大丈夫。
「……っ、依花さん……!! 」
廊下を走る音が聞こえたと思ったら、必死な声が外からした。
(……大丈夫じゃなくなっちゃった)
――桐野くんの声を聞いて、安心したんだ。



