Secret mode〜後輩くんの見てはいけないトコロを見てしまいました〜










(桐野 亜貴……私に一体何の恨みがあって……)


可愛いイケメンわんこ王子。
女性社員に囲まれてるだけならまだいいのに、我が営業部のエースであるから余計にたちが悪い。
そのルックスと甘い声で取引先を口説いたんじゃないかと言われることもあるけど、当然先方にだって男性も頭の堅い人だっているわけで。
外回りだけじゃなく、今みたいに内勤の仕事も早いし正確。
文句を言うのはやっかみたくなる人か、私みたいに捻くれた人だけなんだと思う。
いや、私だって、自分に被害がなければこんな反応はしない。
本当に未だに謎だけど、彼はああして人目を憚らず熱烈にアプローチしてくる。
本当に、何かしら理由があるんだろうな、とは思う。
もしくは、簡単にいけると思った5歳上の地味女にあっけなく振られてプライドが許さないとか。
モテるがゆえ、カモフラージュが必要になったとか。


(何にしても、もういい加減諦めてほしい……)


こっちもそろそろ限界だ。
陰口とわんこの「先輩、先輩」から逃げ回っているせいで、帰宅する頃には体力も気力も残っていない。


(今日も、速攻ベッドにダイブ……)


――でも。

すぐに起き上がって、引き出しからノートと鉛筆を取り出した。
ペラペラとページを捲ると、商品化したい下着のイメージがたくさん描かれている。


(……いつ、企画や開発の方に行けるかな)


もう何度考えたか分からない、答えのない問い。
それとなく希望を言ったりしてみたこともあるけど、通ったことはおろかまともに聞いてもらえた試しもない。
たとえ希望どおりの部署じゃなくても、入社できただけでも夢が叶ったと思ったのは二年目まで。
慣れたのか、幸運だと感謝できなくなったのか、それからはどんどん夢から遠ざかっていく気すらした。

成績を上げれば、希望が通りやすくなるんだろうか。
もっと頑張れば頑張るだけ、したいことをする時間は減る。
それは、急がば回れ、になってる?
夢を叶える為には、やりたくないこともやらなくてはいけない。
たとえ天職だって、毎日楽しいばかりじゃない。
好きなことだからこそ落ち込むこともあるし、上手くいかないとダメージは大きい。
それなら、趣味の範囲内に収めた方が毎日を充実して過ごせるの?

そう思いながらも、鉛筆を走らせる。
分かってる。
好きなことをしているだけじゃ、好きな道には行けない。
進んでも、こうして壁にぶち当たる――ううん。

目の前に壁があるのに、私は突っ立っているだけだ。