翌日出社したら、代わる代わる謝りに来られた。
それも一周じゃ済まずに何回も来るから、いいかげんうんざりする。
謝ればいいってものじゃないし、水をかけられたり公然で馬鹿にされたりして「もういいですよ」と言えるほどお人好しでもない。
仕返しをするつもりはないけど、許すつもりもない。
ただ、仕事をするだけだ。
「ね、依花さん」
そんな私を意外そうに見た後、やがて満足そうに微笑んでから桐野くんは私を呼んだ。
「ん? 」
ちゃん付けはやめたのか。
付き合いだしてから「さん」になるのは少し不思議だけど、桐野くんと私に限っては、そっちの方が近づいた気がする。
「今日、デートしてください」
「……げほっ……」
変に息を吸い込んでしまった反動で、何も飲んでなかったのに噎せてしまう。
「そんなに驚くことですか? まあ、今更ですけど。でも俺、デートってあんまりしたことなくて。……嫌? 」
「い、嫌とは言ってない……。でも、今誘わなくても」
(……って、あ……)
連絡先、交換してなかった。
さすがに、それは話をややこしくするだけだし、何より今となっては言う必要もないことだ。
「だって、依花さん残業しない時は、俺を置いてすぐ帰っちゃうじゃないですか。逆に俺が待ってたら、すごい顔するし……あ、思い出したら悲しさが蘇る……」
「今はそんな変な顔しない……と、思うけど。と、とにかく、分かった」
哀愁を感じる流し目は、演技……で、あってほしい。
確かに、私は酷い態度だった。
あの頃の桐野 亜貴の誘い方は、とても本気に思えなかったから。
(……でも、ちょっと酷すぎたかも)
「やった。今日一日を乗り切る糧にする」
「お、大袈裟」
「そんなことないよ。俺、本当に何も知らないから……いろんなこと教えてほしくて」
意味深な発言に、顔に熱が集まる。
いや、桐野くん自身はそんなに深い意味じゃなくて、単純にもっとお互いを知り合いたいってことだと思うんだけど。
(……何だか、すごい経験者みたいな言われよう……)
周りの人が、聞き耳立てているようにしか見えない。
「どうしようかなー、映画もいいし、先に食事? あ、この前ケーキ買ったとこ、カフェも併設してるんですよね。依花さんが選ぶのも知りたいし。そういえば、誕生日いつですか? プレゼントしたい……」
「〜〜っ、そのどれも楽しそうだけど、とりあえず誕生日はまだ先……! 」
あんまり、恋愛らしい恋愛はしたことないって言ってたっけ。
私だって、同じかそれ以下の経験値だけど、一緒に経験していけたらいい。
「えー、昨年の分って思えばいいじゃないですか。それかクリスマス……」
(……ん? )
なんか、外が騒がしいような。
「……やっぱり来たか。過保護なんだよ……」
溜息の後にポツリと言った桐野くんが、私の方を向いてにっこりと笑った。
(……見覚えのある表情……)
「ここで騒ぎになるのも面倒なので、ちょっと出ましょうか。ね」
二人で消えて、またいろいろ言われないかと思ったけど、この空気の方が耐え難いと判断した。
「大丈夫ですよ。変なことはしません。……信じてくれる? 」
それに、言われるまでもなく、桐野くんはもうあんなことしないって分かってるから。



