Secret mode〜後輩くんの見てはいけないトコロを見てしまいました〜






初めて、髪をショートにしたのもその頃。
正確には、それを乗り越えたと思えてから。
事件自体に、精神的ダメージを受けたのは彼の方だったと思う。
我に返って彼女が怪我をしていて……ひたすら謝られたし、私にとっても彼のご両親が謝罪に家に来たりしたのは通院よりも衝撃的な出来事だった。

でも、何かがプツンと切れた私はリハビリやストレッチをする気にもなれず、結果、怪我自体が治った今でも可動域が戻らないらしく、一定の方向に動かすのが難しい。


「……告白してみたんですけど……」

「っ……聞いてました。そうなったらいいなって思ってましたし、そうする為に努力しようって最近は意気込んでましたけど」

「……ごめん。重い話されて、そんな気分じゃ……」

「違います……! ……あ……」


指先が触れ合ったままだと、私から触れているのだと。
信じられないものを見るように、その手と私の顔を見比べる桐野くんが、私はやっぱり好きなんだな。


「……俺、依花さんを大切にする権利が欲しいから。貰えるように頑張らせてください」

「そんな大袈裟に考えなくても大丈夫だよ。男性恐怖症ってわけじゃないし。あの時も、ちゃんと事前に合意の上で……その。あんなことがあって、必要以上に男性に対して冷めて見ちゃうっていうか。私も、桐野くんに大分失礼だったし……」

「そんな経験したから、気を遣って言ってるんじゃないんです。俺が、そうしたいだけ。……俺に大事にされたり優しくされるの、嫌ですか……? 」

「べ、別に優しくされるのが嫌なわけでは……」


もっと、素の桐野 亜貴が見たい。
でもそれは、彼氏が優しいのが嫌とか、そういう意味のわけなくて。


「よかった。それって、結構大きいと思いません? 嫌いな奴に優しくされても気持ち悪いだけだと思いますし。俺も、ちょっとだけ分かるんだ。……初めてです。こっちの俺の方がいいなんて言う人」


クスッと笑って、さらりと自分の話題に戻してくれる。
それは既に優しさで、やっぱり私はこの顔の桐野くんの方が好きだ。
きっと、他にも素の桐野くんを好きになる人はいたんじゃないかな。
それは確信に近いものがあるけれど、桐野くんのこれまでには感じられなかったのだ。
勝手に、私の意見で苦しみを消そうとしちゃいけない気がした。


「それより、家のこと使って無茶してないよね。桐野くん自身が一番嫌なんじゃない? 」

「それよりって。依花さんとのことを思うと、家の方が “そんなこと” なんだけど。身の上を明かして、依花さんに手を出すなって脅すくらいに留めましたよ」

「……ごめん。私のせいでバラすことになって」


その方が都合がいいと思う人間なら、今の今まで隠してなかっただろう。
その時がくるまで言うつもりなかったと思うのに、こんなことで。


「いえ。そのうち本社に異動になる予定なので、その時にはどうせバレたでしょうから。……これも、初めてなんです。名前に力があって、よかったって思えたの。でも、困りました。明日から、暢気なお馬鹿キャラできなくなっちゃって。あれ、便利は便利だったんですよね。サボれるし」

「仕事は真面目だった気もするけど」


成績トップは伊達じゃない。
だからこそ、佐野さんみたいな人もこれまで表立って不満を言うことはなかった――単純に、言えなかったのだ。


「依花さんも、覚悟してくださいね。社内限定とはいえ、わりと本物の王子様に求愛されちゃった女性、ですから。明日から、結構大変かも」


――こうして、わんこの着ぐるみのなかにいた王子様は、今日から優しい激甘彼氏になった。