「信じられるわけないですよね。だって俺は、佐野と同じどころか、もっと酷いことを依花さんにしたし、言ってた」
「………」
それは……そう、だ。
桐野くんにも手首を握られたし、脅されたし、からかわれたと思っていた。
事実、当初はそうだったんだと思う。
「でも、本当なんです。からかったりしてない。何かに利用したりもしない。当たり前ですけど……好き、なんですよ。だから、あれも他に見せたりなんてするわけないし。あ、でもできればあれ、消したくないです……依花さんとの写真だし。俺が見るだけだから、だめ……? 」
「……と、というか。なんで……」
でも今は、なぜか桐野くんを疑う気持ちがちっとも湧かない。
「……信じてくれるんだ。優しすぎるよ」
彼の雰囲気が、あまりにも違いすぎるのだ。
これを演技と決めつけるのは、あまりにも悲しいと思った。
たとえ、数分後に「なんてね。騙されすぎですよ、先輩」が続いて傷ついたとしても、演技だと罵って彼が苦しむよりはまだいいとすら思えた。
「最初はね、この人が俺を好きになったら面白いなって思ってたんです。第一印象でこれだけ嫌われるの、初めてで。もし好きになってくれたら、俺も少しは恋愛らしい恋愛ができるかなって。勝手な話ですけど」
「……なんで、嫌われてる人から恋愛対象探そうとしたの? 」
モテる人の思考は、よく分からない。
自分を好きになってくれる人から探した方が、効率よさそうだけど――……。
「俺を好きだって言ってくれた人のなかで、俺をずっと一番好きでいてくれる人、今までいたことなかったから。裏切られたこともたくさんあって……あ、俺、すごい兄貴がいるんですよ。格好良くて、何でもできて、何でも持ってて……優しい。そりゃ、そっちいっちゃいますよね。スペックだけとは言わないけど、スペック良くて中身もそっちの方がいいなら、当然」
(……最低だ、私)
効率の問題じゃない。
そんなの、私が以前の桐野くんに嫌悪していたことだ。
でも、違った。
私が勝手なイメージで、勝手に決めつけて、嫌ってただけ。
「そんな顔しないで。だって、それで合ってるんですから。俺は、依花さんのイメージどおり最低な奴だし。割り切ったり利用したことも、たくさんあった。そもそも、見切りつけられたり乗り換えられたりされた原因は俺だから」
表面上治った怪我のことなんて、こっちが言わなければ誰も気がつかない。
何かを抱えたままだと、どうして誰も察してくれないの――私はそう、いつも内心悪態を吐いていたのに。
「だから、見せかけで薄っぺらい格好良さを、軽蔑して見てくるあなたは、すごく目立ってた。実際、依花さんと話すの、すごく楽しかったんだ。それなのに俺、最近辛くなってきて」
――俺、依花さんに嫌われるの、嫌だ。
「今まで、散々嫌われるようなことしてきたのにね。大嫌いって顔されるのが楽しくて、やってたのに……積み重ねてきたものを見て、分かった。俺、あなたのことが好きなんです。……ごめんなさい。見るのも嫌な男に好かれるの、気持ち悪いでしょうけど」
(……馬鹿だな)
見るのも嫌なほど大嫌いな人を、部屋に入れたりしないでしょ。
(……私、馬鹿だ……)
わんこの着ぐるみのなかを、少しずつ見てきた私は。
「好きです。……まだ、諦めさせないで……」
――その内側にすごく、惹かれていたのだ。



