私はもうあなたの婚約者ではないのですが???今日も何故かプロポーズされます。

隼人の家は私の家から30分ほどの場所にある。
住宅街を抜けてしばらくすると、木々に囲まれた一軒の屋敷が見えてきた。

屋敷の前には鉄製の門、春から夏にかけて水連が咲き誇る池のある大きな庭。
ここが日本であることを忘れてしまいそうなヨーロッパ調のお屋敷。

まるで物語の中に登場するこの場所が隼人の家だ。
初めて見た時はお姫様が住んでいるお城のようだと思った。

何度も来た場所だったがあまりの美しさに思わず感嘆してしまった。

「…君はこの場所が好きなようだね」

「あぁ、そうですね…。とても素敵なので…」

「そうか、それはよかった」

「?…あ、えっと、それで、お話というのは…」

来客室に通され、隼人の父親と向かい合わせで座っている。
今までになかった光景だ。会うときにはいつも私の父親か隼人がいた。
アイスティーを出してもらったが緊張で口を付けられそうになかった。

おじ様を見つめるが一向に話し出そうとしない。

「…あの…?」

私がそういうと眉間を摘み、大きくため息をつきながらこう言った。

「…単刀直入に言おう。有亜、君の両親の会社が倒産したんだ」

アイスティーの中の氷が溶けてカランッと音を立てた。

「…今…。なんて言いました?」

思いもよらない言葉で思わず聞き返した。聞き間違いだと思った。
…聞き間違いであってほしかった。

「…残念だが。君の両親の会社は倒産したよ。そして、現在君の両親の行方が分かっていなくてね」

「…は、え?どういうことですか?…いや、だって。だって、朝までいつも通り普通でした。…二人とも…」

朝、学校に行く前に会った両親を思い出す。
パパはいつも通りのんきにあくびしながらコーヒーを飲んでいて。
ママはいつも通り美味しい朝ご飯を用意してくれていて。
私が家を出るときも、いつも通りの笑顔で送り出してくれた。

…いや。そういわれるとママの様子が少しおかしかった。
家を出るときいつもはしないのに。

『いってらっしゃい』

そういって私をギュッと抱きしめた。

珍しいな…とは思っていた。思っていたけど…。
まさか…そんな…。

今起きていることが本当に現実なのかどうかわからない。
動悸と、それからめまいがして頭がくらくらした。

「…」

「それでね、君にはさらに残念なお知らせがあるんだ」

「…残念なお知らせ?」

おじ様は髪を一枚取り出し、私の目の前に置いた。

「これが何だかわかるかい?」

「…借用書?…パパの名前…。借金をしていたということですか?」

「そう、私が君の両親へ貸していた金額が書かれているんだ」

心臓が止まってしまうかと思った。
5と0が6つ。えっと…?

「…5…000万円?…これは…」

「その通り…かわいそうに。君も何も知らなかったんだね」