「…さま、隼人さま」
「…んあ…?…かくれんぼは…」
「…一体何の話をしているんですか?…おはようございます。朝です」
「あ、有亜…おはよう」
私はベットの横にあるカーテンを開いた。
今日も日差しが強い。蝉の鳴き声が鳴り響いている。今日も暑い一日になりそうだ。
「…さぁ、隼人さま。ベットから立ち上がってください。今日はお忙しい日ですよ」
「わかってる…。ふぁあ…」
隼人さまはそう言って伸びをするとベットから足を降ろし、座った。
「…有亜も慣れてきたって感じだね。その服も見慣れてきたよ」
カーテンを開いた後は、着替えの準備、朝食の支度、その後に一日のスケジュールの確認。
この仕事を始めて一週間たつが、もうだいぶ慣れてきた。
まぁ、まさか。こんな…メイド服を着ることになるなんて思っていなかったけれど…。
ロング丈のメイド服。確か…クラシックメイドというんだったっけ。
着るには最初は抵抗があったが、こちらにも慣れてきた。ちょっと暑いけれど…。
「…こちら本日のお召し物です」
「ありがとう」
「それでは…朝食の準備をしてまいります」
私はルーティーンをこなすため一礼し、部屋から出ていこうとした。
その瞬間、隼人様に腕をガシッと掴まれた。私が逃げないようにか、そのまま腕を離さない。
「えっと、その…なんでしょうか?」
「その…今日も朝食の後…少しだけ時間が欲しいんだけど…いいかな」
胸がドキッとした。…いや、今更動揺してどうする。
これはもういつものことなのだ。この一週間何事もなくやって退けてきた。
どうせここで断ったとしても後で起こることなのだから、今受けておいた方がいい。
「…わかりました。どちらへ向かいましょうか…?」
「この隣の部屋に来てくれるかな」
「かしこまりました」
そういうとようやく隼人様は腕を話してくれた。
部屋から出て、また一礼し、ドアを閉めた。
「はぁー…」
私はドアにもたれ掛かり、思わず深いため息をついてしまった。
「…今日もやっぱりあるのか…。気を引き締めなきゃ」
ミーミミンミンミ―
蝉の鳴き声が廊下の突き当りにある窓から聞こえてくる。
喚起のために少しだけ開けてあり、先ほどより大音量だ。
…あー。…夏…だなぁ。
それにしても…。
一週間前の自分は、ただの高校2年生で。
終業式の後を境に、こんなことになるなんて思ってもみなかった。
私は再度大きなため息をついた。
「あぁー…夏休み、満喫するはずだったのになぁ」


