乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

榊がどんな顔でいたのか。芯の通った声は、覚悟のようで、凪いだ水面のようで、闇の底から願うようで。『ここ』って響きが耳の奥にエコーする。

「・・・若頭(かしら)や仁さんに面倒かけても生きてぇって、俺が言えるのかよ」

「言えるよ。お釣りがくるよ」

「お前は、」

言葉を呑んで、吐き出す。

「俺でいいのかよ」

「真が同じこと言ったらグーで殴るよ」

たとえ脚が一本になったって、たとえ何もできない体になったって、真は真で、榊は榊なんだから。

「臼井宮子が間違ったらバカヤロウって、『そっちじゃねぇ、こっちだ』って、怒鳴ってくれる口だけあれば十分だよ」

あたしを抱き込んだ硬い腕に力がこもった。微かに体を震わせた榊が泣いてるのかと。思った。

「らしくないこと言ってないで、シンガポールでもどこでも飛んでって、さっさと治って戻ってきてよ。あんたの場所は空けて待ってるからね?あたしの隣りは真と榊に決まってんだからねっ」

強がってお説教ぶる。あたしまで泣いてどうすんの。最後がうわずった。

「勝手に誰かにゆずったら赦さないからね・・・っっ」

「・・・らねぇよ、死んでも」

くぐもった声と一緒にあたしを胸元から押し返した男は、背を向けて布団に潜った。

「真に謝っとけ、高津のこと。・・・お前にその気がなくても腹立つんじゃねぇのか」

「・・・だよね」

苦笑いで立ち上がり、わざと軽めに「じゃあ行くね」。

「臼井」

ドアノブに伸ばした手を止める。

「・・・・・・気を付けて帰れ」

言いたかったのは、それじゃなかった気がした。