榊がどんな顔でいたのか。芯の通った声は、覚悟のようで、凪いだ水面のようで、闇の底から願うようで。『ここ』って響きが耳の奥にエコーする。
「・・・若頭や仁さんに面倒かけても生きてぇって、俺が言えるのかよ」
「言えるよ。お釣りがくるよ」
「お前は、」
言葉を呑んで、吐き出す。
「俺でいいのかよ」
「真が同じこと言ったらグーで殴るよ」
たとえ脚が一本になったって、たとえ何もできない体になったって、真は真で、榊は榊なんだから。
「臼井宮子が間違ったらバカヤロウって、『そっちじゃねぇ、こっちだ』って、怒鳴ってくれる口だけあれば十分だよ」
あたしを抱き込んだ硬い腕に力がこもった。微かに体を震わせた榊が泣いてるのかと。思った。
「らしくないこと言ってないで、シンガポールでもどこでも飛んでって、さっさと治って戻ってきてよ。あんたの場所は空けて待ってるからね?あたしの隣りは真と榊に決まってんだからねっ」
強がってお説教ぶる。あたしまで泣いてどうすんの。最後がうわずった。
「勝手に誰かにゆずったら赦さないからね・・・っっ」
「・・・らねぇよ、死んでも」
くぐもった声と一緒にあたしを胸元から押し返した男は、背を向けて布団に潜った。
「真に謝っとけ、高津のこと。・・・お前にその気がなくても腹立つんじゃねぇのか」
「・・・だよね」
苦笑いで立ち上がり、わざと軽めに「じゃあ行くね」。
「臼井」
ドアノブに伸ばした手を止める。
「・・・・・・気を付けて帰れ」
言いたかったのは、それじゃなかった気がした。
「・・・若頭や仁さんに面倒かけても生きてぇって、俺が言えるのかよ」
「言えるよ。お釣りがくるよ」
「お前は、」
言葉を呑んで、吐き出す。
「俺でいいのかよ」
「真が同じこと言ったらグーで殴るよ」
たとえ脚が一本になったって、たとえ何もできない体になったって、真は真で、榊は榊なんだから。
「臼井宮子が間違ったらバカヤロウって、『そっちじゃねぇ、こっちだ』って、怒鳴ってくれる口だけあれば十分だよ」
あたしを抱き込んだ硬い腕に力がこもった。微かに体を震わせた榊が泣いてるのかと。思った。
「らしくないこと言ってないで、シンガポールでもどこでも飛んでって、さっさと治って戻ってきてよ。あんたの場所は空けて待ってるからね?あたしの隣りは真と榊に決まってんだからねっ」
強がってお説教ぶる。あたしまで泣いてどうすんの。最後がうわずった。
「勝手に誰かにゆずったら赦さないからね・・・っっ」
「・・・らねぇよ、死んでも」
くぐもった声と一緒にあたしを胸元から押し返した男は、背を向けて布団に潜った。
「真に謝っとけ、高津のこと。・・・お前にその気がなくても腹立つんじゃねぇのか」
「・・・だよね」
苦笑いで立ち上がり、わざと軽めに「じゃあ行くね」。
「臼井」
ドアノブに伸ばした手を止める。
「・・・・・・気を付けて帰れ」
言いたかったのは、それじゃなかった気がした。



