乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

「高津?」

禁句の名前が声に出てたのを気付かなかった。隣りからの刺すような冷気に、涙の跡が凍ったのもかまってられなかった。

走った火花が弾けて降り注ぐ。記憶が爆ぜる。あのとき千也さんに連れてこられた、あのカフェで彼は。シンガポールを拠点にして世界征服するのも悪くないって、さっぱり笑って。

まるっきり嘘でもなくて、もしかしてシノブさんから事情を聞いて、・・・ううん頼まれて?

「だから『いつでも手を貸す』って・・・!」

前のめりに思わずイスから立ち上がる。

「宮子?高津がなに?オマエ、」

手首を強くつかまれて振り向かされる。真がすっごく怖い顔してる。後先なんて考えてられず、ただ夢中だった。

「ごめん、ちゃんと言うつもりだったの。榊おぼえてる?昨日、雑貨屋さんであたしに声かけた銀髪の男!英語で喋ったけど、あれね高津さんだよ」

眼を瞠り、今にも呻り飛ばしてきそうな榊へ勢いで畳みかける。

「大丈夫なにもされてない、あのひと、あんたを助けに来ただけなんだからっ」

「話が見えねぇな」

波立った空気を割った低いトーン。宥めるような哲っちゃんの薄笑みで我に返った。

「宮子お嬢。何を黙ってたのか、聞かせてもらえませんかね」

「・・・うん、ごめん哲っちゃん。・・・あのね」

観念してあたしは大きく息を吐いた。