乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

空いてるパイプ椅子に手招きされると、松葉杖を立てかけた真もかたわらに腰を下ろす。半分あたしの方へ向き、ひと呼吸おいて続けた。   

「松田センセイはほんとに命の恩人なんだよ。フツウの病院に連れてけないのを承知で、できる限り俊哉を助けてもらった。また一緒にメシ食えるのも、宮子がブン殴れるのも全部センセイのおかげでさ」

医者だから治して当たり前、じゃない。もちろんあたしだってこの恩は一生忘れない。

「だからこの先、俊哉がどれだけ生きられるかは運まかせでも、松田さんを恨むのはナシな」

え。

「穴空いた内臓がどこまでもつか分かんねーって言われてる」

耳の奥に焼き付いて。
世界が止まった。

榊を見た。榊もあたしを見てた。いつもと変わんない不愛想であたしを見てた。

「・・・心配するだけ無駄だって言ったじゃねぇか」

静かな眼差し。揺らがない眼差し。

「しぶとく長生きするかもしれねぇし、そんなのは俺にも分からねぇよ。・・・お前にそんな辛気臭い顔させるくらいなら、さっさとくたばった方がマシだ、ドアホ」

見えない指先でデコピンされた。けっこう痛くて声が震えた。

「・・・・・・あんたはなんで、いつもそ、・・・っ」

そこは強がってでも言い返すとこだったのに。地面の下で水道管が破裂したみたいに、心臓が破けた。

あたしの心臓ってこんなに薄皮だったんだ。知らなかった。