乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

さっきだって若い子が『すげー怖い』って。自分には普段どおりに映った。気付かなかった。ご飯をちゃんと食べてるか、寝不足で辛そうじゃないか、心配はそっちに向いてた。

「あたしの目、節穴すぎ」

漏れた溜息。

一から百まで解りあえて当たり前だなんて思ってない。子供のころから兄妹みたいに育っても、唯一無二の存在でも、別別の人間だ。

大人になればなるほどカンタンだったものが複雑になったり、一緒に歩いててもいつの間にか歩幅が違ってたり。

それがどうってことない時もあれば、今は見過ごしたらどんどん帳尻が合わなくなってくと思う。だから手遅れになる前に、真とも榊ともとことん膝を突き合わせよう。お腹の底に力を込めた。

「・・・よし!」

ついでに軽く掃除機がけでもして帰ろうと、勢いつけてソファから起き上がった矢先、外から玄関ドアのロックが解除されたのが聞こえた。

松葉杖で床を突く音が近付くのを静かに待つあたし。リビングに現れた真はゆっくり傍まで来て、隣りに腰を落とす。

「家出はおしまい。迎えに来た」

体を引き寄せられ、そのまま髪に埋まる吐息。

「・・・宮子は悪くないよ」

先回りされた。

「ウソつきの悪い男はオレと俊哉だから、オマエは怒りな。殴りたかったら殴っていーんだよ」