乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

仁兄の後押しが響いたらしく、殊勝に頷いた榊に思い出して付け加える。

「ユキちゃんがね、元気になったら亞莉栖でお祝いしようって。相澤さんでしょ?シノブさんでしょ?甲斐さんもお見舞いに寄ってくれたし、みんな呼んでお礼しなきゃね」

「ムリすりゃ治るってもんじゃねーの。焦んなよ俊哉」

他人の言ったキレイゴトだったら榊には刺さんなかったと思う。誰でもない、一生治らない傷を負った真の本心だったから。

榊の空気が変わった気がした。眼差しに強さが滲んで、()けた顔付きに意地が戻って見えた。

「どうだい榊は」

そこへ哲っちゃんが悠然と入ってきたのを、眼鏡のブリッジを指で押し上げる仕草で仁兄が立ち上がった。

「俺は先に戻る。真、お前は宮子と親父の車で帰ってこい」

ベッドの足許から榊に。

「こっちの後始末(カタ)はじきにつく。養生するのがお前の仕事だぞ」

「・・・っす」

背中を見送るあたしの横に立った哲っちゃんが、榊に淡く笑んだ。

「宮子お嬢をこれ以上泣かさずに済んだじゃねぇか」

若頭(かしら)・・・・・・」

「礼を言う。見込んだ通り大した男だったな。これからも存分に俺の役に立てよ?」

「・・・りがとう、ございます・・・」

哲っちゃんの最上級の褒め言葉に聞こえた。

命を張れ、じゃない。『役に立て』を榊も静かに噛みしめてるようで。なんだかまた鼻の奥がつんとした。