乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

掠れ声が聞こえて一瞬、息を呑んだ。薄目を開けた榊があたしを見てた。喋って、ちゃんと、あたしを。

「な、・・・くな」

「榊が泣かせたんでしょーが!『ありがとう』が先って決めてたのに、どーしてくれんのよぉっ」

理不尽な文句つけながら泣きじゃくって子供みたいに。いつもどおりの二人でいられてるのが嬉しくって、張ってたものがたわんで、緩んだ。

「ほらなー?宮子も成長してんだろ?」

榊に向かってか、伸ばした指であたしの目尻と頬を拭ってくれた真が笑った気配。

差し出されたティッシュで鼻をかみ、ようやく自分を落ち着かせてから、肩でひとつ息を吐いた。

「榊」

呼べば、眼で反応した相変わらずの仏頂面。戻った日常。これも奇跡だったのかもしれない。

「守ってくれてありがと。・・・ちゃんとあたしの前にいてくれてありがと。あたしだけじゃないよ、あんたはあたしと繋がってるみんなごと助けてくれたんだよ」

『大したことじゃねぇよ』とでも言いたげに、気怠げに目を閉じた榊。

「今までの分と合わせて、榊には返さなきゃなんない恩が山ほどあるんだから。ぜんぶ返しきるまで付き合ってもらうからね?」

「・・・らねぇ・・・ぞ」

「あんたねぇ。もらって損するワケじゃないんだから、素直に受け取んなさいよー」

唇を尖らせて。榊は昔っからこう。天の邪鬼なんだか照れ屋なんだか!

「宮子の言うとおりだ。今回は黙って取っておけ。自惚れろって言ってるんじゃねぇよ、お前の矜持に褒美をくれてやれって話だ」