乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

ふだんは用心して大通りしか使わないのが鉄則の及川さんは、裏道を抜け、できる限り急いでくれたと思う。車が病院の正面玄関近くに音もなく横付けされて、あたしは自分でドアを押し開ける。

「先行ってるねっっ」

哲っちゃんの返事は聞き流し、ト-トバッグを肩がけして小走りに駆け出した。

抜けたエントランスの先でもどかしくエレベーターを待つ。三階に上がり廊下を早足。非常口手前のドアを横にスライドさせて中へ飛び込んだ。

「榊はッ・・・?!」

いたのは仁兄と真だけ、看護師さんや先生の姿はなかった。

「呼んだら返事したよ、あんまり動けねーけどさ」

「筋力も体力も落ちてるしな。しばらくはリハビリだ」

ベッド脇のイスに腰かけた真のそばに寄ったあたしに、テーブルスペースに座ってた仁兄の声が追いかけてきた。

横になってる男の顔を覗きこめば、昨日までより血色よく見えた。生気が通ってる気がした。

「榊ぃ・・・っっ」

床にへたり込みそうになるくらい心底安心して、やっぱり涙が零れた。

この十二日間、あんたもあたし達も、負けらんない闘いをよく耐えたね。頑張ったね。でもこんなのは二度とごめんだからね。

「なにやってんのよ、あんたはぁっ」

泣きながら笑って、怒った。

「どんだけ心配かけたら気が済むのよ、ばかぁ・・・!」

「・・・・・・る、・・・せ、ぇ・・・」