乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

それまで全く気配に気付かなかった。落ち着いた声と一緒に、格子調の引き分け戸がスライドする。膝に両手を添え正座して、仁兄とも違う冴えた空気をまとった男がゆっくり、黙礼した顔を上げた。

「ご苦労でしたね、こちらへお掛けなさい」

「はい」

おばあちゃんに促されたそのひとは、流れるような所作であたしの横にしなやかに腰を落とす。

黒の三つ揃いにブルーグレーのシャツ、シルバーのネクタイ。グレージュに染め変えた髪は後ろに流し気味で、線の細い輪郭が引き立つ。

穴が空くほど見つめる。ううん、見惚れてる。

「なんでユキちゃん・・・?」

日本語がヘン。そうじゃなくて、だって、ここにいるのが変。

「このまま終われないのをトシヤに教えられたから、かな」

やんわり弧を描いた眼差しがこっちを向いた。

「相談役なんて仰仰しいけどね。期待されるだけの働きはするつもりだよ、宮子お嬢」

男言葉で。スーツは一度目は結婚式で。ユキちゃんだけど、ほんとにあたしのユキちゃん?

呆けてるあたしにおばあちゃんが、しっかりなさい、とばかりに助け船を出してくれる。

「宮子、少し庭を歩いていらっしゃい。そのうち真さんも戻るでしょう。藤代、任せましたよ」

「承知しました」

合わせて立ち上がったユキちゃんは、結い髪の後ろ姿に浅く礼を返すと、あたしに手を差し出した。

「光栄だね、大姐さんにエスコートを許してもらえるなんて」

夜色の眸で、涼やかに微笑んで。