乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

そのとき、眼鏡のレンズ越しの眼差しが1ミリも揺らがなかったら。あたしはもう何も言わない。

「行ってるあいだにリンに従兄弟ができても知らねーよ」

毛足の長いラグに直に座った真が、伸ばした手でソファに寝転ぶあたしの頭を撫でながら、仁兄の隣りの榊に。

「さっさと帰ってこねーと、浦島太郎になってんじゃね?」

「・・・竜宮城に行くわけじゃねぇよ」

真の、ちょっと悪そうに笑った気配は心配の裏返し。ぶっきら棒で返した男も、きっと分かってる。

リハビリの成果で脚の寿命がちょっぴり延びたって、先生にお墨付きをもらえた矢先。お父さんと哲っちゃんは、ゴールデンウィーク前に榊がシンガポールに発つのを承知した。あと半月なんてあっという間。

「言ったろ、オレは男を待つシュミなんかねーの」

ひねくれ気味な軽口も寂しさの裏返し。・・・うん。すっごくよくわかる。あたしも意地張るしかないから。

そうしないと、『行かないでよ』って引き留める言葉が簡単に飛び出しちゃうから。

その晩、真は。久しぶりの我が家でやっと気を抜けたのか、可愛く酔っぱらって榊にずっと絡んでた。面白いからスマホのビデオで撮っといた。

写真も嫌がる榊の動画は、後にも先にもそれ一本きり。消えないようにメモリーに残して、うんざり顔を閉じ込めた1分46秒をイヤでも観ちゃうかもしれない。

本物のうんざり顔が戻ってくるまで、・・・数えきれないくらい繰り返し。