乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

真の退院が決まった。

三月も終わるって言うのに、春はどこ??ってぐらい空気は冷え冷えして、桜の見頃もまだこれから。まるで榊の餞に合わせたみたいに。

「ただいま戻りました」

「ご苦労でしたね真さん」

F型の真新しい松葉杖をつき、実家の玄関で頭を下げた真をおばあちゃんが労う。

ジャンパーを羽織ったペインターパンツ姿の足取りは、前よりしっかりして見えた。膝まで力が伝わってるように見えた。そこまで回復させるのに、どんだけ歯を食いしばったか。

戻る途中で行きつけの美容室に寄ったらしく、カラーを入れ直して、さらっとスタイリングしたアイドル顔に、汗と努力の跡なんて微塵も残してなかった。

「おかえり」

「ん。愛してる宮子」

画面越しじゃない笑顔。声。匂い。

頭の天辺、おでこ、鼻を軽く啄んだキスは唇に触れた途端、お互いの熱を絡め取りながら深くつながった。

「リンもただいま」

ポッコリ出てきたお腹を愛おしそうに撫でる掌の温もりが、誰のか分かったように中から小さい返事が返った。

「うわ、動いた?」

「ちゃんと聞こえてるからねぇ」

「ヤバイ可愛いすぎる・・・」

男の子か女の子か、訊けば教えてもらえるけど、楽しみは最後まで取っとくことに決めてる。