乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

「あたしを置いてくのも、リンに会わないつもりなのも、泣かせたのも、ぜんぶ貸しだからね」

生真面目なあんたには約束より、貸した方が効き目あるでしょ?棘のあるほうが痛くて、忘れらんないでしょ?

「もし返さなかったら、隣りにいた男の名前なんてすぐ忘れるから」

顔を上げた榊がじっと見つめてる。縫い止められたように見つめ返す。形になんない言葉と思いと記憶が一瞬、限りなく広がって交差した。

さっき涙を拭ってた指先が無遠慮に頬に触れる。あたしは黙ってされるがまま。

「させるかよ」

笑った。榊が。口角が上がって、不敵な眼で、白昼夢でも見たのかと息を呑んだ。合間に、黒い背中が扉の向こうに消え。ほっぺたに温もりだけ残ってた。

『・・・真は強ぇぞ』

閉まる間際に聞こえた気もした。

力が抜け、ソファにすとん、とお尻が落ちる。

「うそ、でしょ」

どこに隠してたのよ、あんな悪そうな顔・・・!! 
シノブさんにも負けない一端の極道みたいな笑い方して・・・!

呆れて、ちょっと腹が立って、一周回ったら可笑しくなった。

「あんたに勝てないわけよねぇ?」

わかってる。榊も真も目先なんか見てない。つらぬこうとしてるその覚悟は、もっとずっと先へ向かってるんだ・・・って。