乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

サイズの合ってた黒スーツが余り気味で、食べる量も減った。お酒の席は運転手に徹して同伴しなくなったし、見かけは平気そうでも、前と同じじゃなくなったのを榊は黙って耐えてる。

思い通りになんない体を引きずって愚痴ひとつこぼさないで、諦めないで自分に出来ること探したいのを止めたら、あたしはクズだ。

だけど、お腹の底で聞き分けのない自分が暴れてる。『どこにも行かないでよ!男のプライドとあたしとどっちが大事なのよ?!』って。

「・・・・・・榊のばか。勝手に行けばいいでしょ・・・っ」

鼻をすすり上げながら、思ってもない悪態つくのが精いっぱい。

「待ちきれなくなったら、こっちから押しかけるからねっ」

脅しにもなんない一撃をどう受け止めたか、武骨な指がらしくもなく、不器用にあたしの涙を拭ってる。

「・・・大した手柄もねぇのに若頭や仁さんが引き立ててくれたおかげで、俺はここにいる。そいつを納得しねぇ奴らもいる。何も言わせねぇだけの極道になって戻る。お前の隣りは誰にも譲れねぇ。・・・俺が死ねねぇ理由はそれだけだ」

鈴の音みたいに心に響く。切なく震わせられる。

「泣かせた分・・・お前の気の済むようにしやがれ」

あんたは殴られたかったのかもしれないけど。ふっくらしてきたお腹の辺りに、坐ったままの榊の頭をやんわり抱き寄せた。