乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

「ほら顔を上げてちょうだい。・・・トシヤは必ずもどるよ、そういう男だからね」

ふいに男言葉に変わったユキちゃん。埋めてた顔をゆるゆる上向かせた。

「宮子お嬢の声はちゃんと届いてる。道が暗くて迷ってるのかもしれない、どうする?」

「・・・迎えに行く。引き摺ってでも連れて帰るんだから」

「じゃあ泣いてる場合じゃないわね」

真とも違う甘やかし方でニッコリ笑うと、目尻の涙を指で拭ってくれるユキちゃん。挫けそうになるたび、掬い上げて勇気をくれるユキちゃん。いつもいつも。

「そう、だね。おいしいご飯たべて力つけなきゃ、あのデカい男に負けちゃうよねぇ・・・っ」

鼻をすすってあたしも笑い返す。無理やり作ったのじゃなく、晴れ間が見えた心そのままの笑顔で。

この三人で会食なんて二度はないと思う。ユキちゃんはあくまでBAR『亞莉栖』のママで、情報屋的な裏方さんだもん。本家の敷居をまたぐこともないし、表舞台に出てくることだってない。

秋津(あきつ)組と並んで極道二大勢力って言われる、櫻秀会(おうしゅうかい)派の一ツ橋組若頭、遊佐(ゆさ)哲司とは、お日さまの下で一緒に歩けない、・・・みたいな。

もしかして見抜かれてたかなぁ・・・。

初夏らしい前菜から始まったお料理をいただきながら、向かいの哲っちゃんをそっと盗み見た。