乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

「・・・お前に話がある」

「待って」

咄嗟に。

「心の準備するから」

答えが違った。直感。もう、なにか腹は決まってる強い眼に、観念してゆっくり息を逃した。

「いいよ、聞く」

読みかけの雑誌を閉じると、ちょっと背筋を張る。拳を両膝においた榊が口を開いた。

「真が退院したら俺をシンガポールに行かせてくれねぇか」

「シンガポール・・・って、もしかしてどっかまた具合悪いの?だったら哲っちゃんに言ってすぐ行っ」

「そうじゃねぇよ。・・・病院から半年にいっぺん来いって催促されてんのは、嘘じゃねぇが」

低いけど、言葉のひとつひとつに魂がこもってるよな、静かだけど真っ直ぐな声。

「向こうでやることがある。・・・高津さんは、俺がいつ来てもかまわねぇらしいしな」

やりたいことがあるのは飲み込めた。準備してたのに、続いた名前に息を忘れた。

真がいたら取りつく島もなかったぐらい、ただじゃ済まなかったと思う。あたしだって青天の霹靂すぎて、思考回路がつっかえてる。丸が三角になったみたいにガタゴト言ってる。

なんで榊が高津さんと?
あのひとの毒に取り込まれた?
千也さんにほだされた?

ううん、死んでもありえない!!

一瞬、温度のないあのひとの笑みが瞼の裏をよぎった。

「・・・やることって何?教えて」