乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

ユキちゃんが自分のことを口にするなんて滅多にない。あたしの顔に出てたのか、長い指で拭き上げたタンブラーを戻しながら、ふっと淡く口許を緩ませた。

若頭(かしら)に拾われた恩は、宮子お嬢に返す約束でね。だから感謝は必要ないよ、勝手な償いなんだから」

瞬きを忘れた。哲っちゃんと約束。初めて知った。

「ユキ姉がどう思っててもオレは、助けてもらってる恩しかねーけど」

「・・・お互い勝手でいいじゃねぇか、感謝するのもされるのも」

真と榊に先を越される。

「じゃあ一生、恩返ししてねユキちゃん」

真面目に笑った。

「お母さんになってもおばあちゃんになっても、子供と孫も面倒見てね?」

「宮子お嬢が望むなら」

「山ほど“ありがとう“を言うけど、あたしのはただの“ダイスキ”って意味だから。ユキちゃんへの愛が漏れちゃってるだけだから、気にしないでよ」

「・・・参ったね」

ユキちゃんがどんな負い目を持ってるかは知らない。哲っちゃんも黙ってるなら訊かない。

あたしの答えがユキちゃんの欲しい正解だったか、分かんない。

「ユキちゃんが思ってるよりずうっと、あたしも真も榊もユキちゃんを愛してるからね?」

眼差しを歪めて、堪えるようにユキちゃんは儚く微笑んだ。

「・・・・・・“ありがとう“」