乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

一気に色んなものが込み上げて、泣きそうだったのを見せたくなくて、上着の下衿をつかんで榊の胸元に顔を埋めた。

「カラダ治しに行くのがあんたの仕事だからね?最重要任務なんだからね?医者(センセイ)の言うこと聞いて、ぜったい無理したり、痛いの我慢しないでよ?」

「しねぇよ・・・」

「言葉だって通じないんだから、困ったらカッコつけないで誰かに助けてもらいなさいよ?榊はいつも頼らなさすぎなんだからっ」

「ほっとけ」

「紗江が」

生きて帰ってこなかったら許さないからね。・・・が、喉元までせり上がったのを飲み下し、咄嗟に嘘ついた。紗江にはまだ伝えてない。

「お土産忘れたら許さない・・・って」

「・・・おう」

「それから、」

先が続かない。顔見たら言いたいことが山ほどあったのに。はちきれそうになってるものに圧し潰されちゃって、どうしてもカタチになんない。

「臼井」

黙ってすがるあたしの耳に低く。

「親と縁切って出てきたことも、カタギと縁切ったことも、俺はひとつも後悔してねぇよ」

訊いてないことを自分から話す男じゃなかった。夜の帳に包まれるみたいな、そんな静かな声するなんて知らなかった。

「・・・惚れた女にテメェをくれてやって後悔するかよ」