乞い果てて君と ~愛は、つらぬく主義につき。Ⅲ~

ねぇ。

あんたが戻ってくる場所はここだけなんだから、うっかり間違えないでよ?

あんたの場所は、綺麗にラッピングしてリボンかけて、ちゃんと名札も付けとくからね?

榊のうんざり顔が広がって消えた。どこにいても、そばにいなくても、真っ先に浮かんできそうだった。

「真」

「ん」

「榊だもん、大丈夫だよ」

脈略もなく、ふと。

「アイツはあきらめねーよ」

深い声だった。

無性に手が繋ぎたくなったのを、代わりにTシャツに羽織った黒シャツの裾をきゅっと握った。








今日の予報は曇りときどき雨だった。六時前に目が覚めて、なんとなく朝の空気が吸いたくなって。部屋着をかぶると、真を起こさないようベッドを抜け出した。

まだママも起きてない薄明るいリビングを忍び足で横切り、サンダルを引っかけると静かに表へ。さわやかとは言い難いけど、降ってなくてよかった。さすがの榊だって、飛行機に乗るまでにずぶ濡れはカンベンしてほしいでしょ?

昨日は、急な出発を知らされた葛西さん達が、当の本人よりてんやわんやだったそう。スーツケースも用意してない榊を車に乗せて、必需品をあれこれ買い回ってくれたり、古株の先輩が知り合いから海外行きの情報を集めてくれたり。

お父さん達や哲っちゃんだけじゃなく、シノブさん、相澤さんからも餞別が届いたって聞いた。自分のことみたいに胸が詰まった。

大声で叫びたかった。あんたは独りじゃないからね!・・・って。