「健兄ごめんっ、暖さんが送ってくれるって!」
「は?」
「彼が来てるの!!やっぱりさっきの雨の時に聴いたの、暖さんのピアノだったみたい!お母さんに上手いこと、言っといて!」
「おいっ、紫陽花ちゃん」
1分1秒でも早く、彼に会いたい。
だって、18時にコンコースにいたのなら、既に3時間も待たせてることになるんだもん。
事務所を飛び出して、改札口へと猛ダッシュ。
髪が乱れようが、気にしてなんてられない。
「暖さんっ」
「……お疲れさん」
階段を駆け下りた先に彼はいた。
黒い半袖Tシャツにデニムというカジュアルな格好で。
しかも、初めて聴く、彼の本当の声。
透き通っていて、凄く甘い声だった。
「危ないから走って来なくてもよかったのに」
「だって……(会いたかったんだもん)」
ベンチに座る彼の前に立ち止まり、少し息切れした呼吸を整えていると。
スッと立ち上がった彼に抱きしめられた。
「返信しなくて、ごめんね」
「……ううん」
「ちょっと驚かせたくて、焦らしちゃった」
「っっ」
悪戯っぽく笑う彼は、優しく背中を摩る。
「うち、汗臭くないですか?」
「全然。俺の方が汗臭いんじゃない?ずっとここにいたし」
「えっ?!」
「この景色が懐かしくて、ずーっと眺めてた」
ちょうど1年前。
この駅で告白して、この駅で彼と過ごした想い出。
あっという間に1年が経ったんだと改めて実感した。



