手を繋いで、君と前を向く。

*****

「……よぉ」

「九条くん!おはよう」

「もうそんな時間じゃねぇだろ」

「うん。でも一日の中で最初に会った時はおはようって感じしない?」

「……ちょっと俺にはよくわかんねぇな」

「えぇー」


九条くんが初めてお見舞いに来た日から、数週間が経過した。

あれ以来、九条くんは週に一回のペースでお見舞いに来てくれている。


"母親の見舞いのついでだ"


なんて言っていたけれど、看護師さんが


"那智くん、今までは月に一度くらいしか病院に来なかったのよ?"


ってニヤニヤしながら言っていたから、もしかしたらわたしのために来てくれてるのかな……?なんて、都合の良い期待を持ってしまう。

まさか、そんなわけないのにね。


あの日、泣き疲れて眠ってしまったわたしが次に目を覚ましたのは夕方で。

九条くんは帰っていて、お母さんもすでに夜勤に行った後だった。

看護師さんが


"イケメンな彼氏だったね"


なんて言ってきて、誤解を解くのに必死だった。

その数日後に九条くんがお見舞いに来てくれた時は、泣いてしまった恥ずかしさとまた来てくれた嬉しさで感情がめちゃくちゃになった。

九条くんの顔なんてまともに見れなくて、だけど来てくれたからお礼は言いたくて。

また変なことを口走ってしまって、九条くんに笑われたことだけ覚えてる。

そんな自分が嫌になるけれど、九条くんの笑顔を見ると心が温かくなるから、少し嬉しかったりもするんだ。