「え、えっと……」
「あなた、九条那智くんでしょう?」
「はい……そうです……」
まさか潮路の母親だとは思わず、突然の出来事に戸惑う。
「急に呼び止めてしまってごめんなさい。どうしても、あなたにお礼が言いたくて」
「お、お礼……?」
礼を言われるようなことは何もしていないはずだ。
だけど、潮路の母親はその場でガバッと俺に頭を下げてきた。
「先日は雪菜を助けてくれてありがとう。お茶も飲ませてくれたのよね。本当にありがとうございました」
「え……いや、俺は何も……」
「あなたが雪菜を抱き止めてくれたから、倒れた時にケガもせずに済みました。本当にありがとう」
何度もそうお礼を言う潮路の母親に、俺は困惑して一歩後ずさる。
大人に頭を下げられる経験なんて全く無いから、どうしたらいいかがわからない。
「あ、あの。お礼とか良いんで。気にしないで……ください……」
それよりも、俺は聞きたいことがあるんだ。
「あの。聞きたいことがあるんですけど」
「え?」
「潮路……雪菜さん、入院したって聞いて」
「……えぇ、そうなの」
「どこか、悪いんですか」
あいつにはオブラートに包めと言っていた癖に、こんな答えづらいようなことを直接聞いてしまう自分に引く。
だけど、潮路の母親に会えたんだ。このまま帰るわけにはいかない。
冷静に。落ち着いて。そう思えば思うほど心が速まって、途端にうるさくなる鼓動に胸を抑える。
「……ここじゃあれだから、雪菜の病室に移動してもいいかしら。本人に聞くのが一番早いと思うから」
切なそうに眉を下げた表情を見て、ゆっくりと頷いた。



