顔も見たことだし帰ろうとしていた身体は、
「なっちゃん、みかんがあるの。一緒に食べよう」
と言われて仕方なく足を止める。
「ごめんね、冷蔵庫の中に入ってるから取ってくれる?」
「取れないんなら外に出しとけよ……」
「そうしたらすぐダメになっちゃうじゃない。次なっちゃんが来た時に一緒に食べようって思ってたの。だからお願い」
「……わーったよ」
ベッドサイドの椅子に腰掛けて、冷蔵庫から取り出した冷えたみかんを一緒に食べる。
久しぶりに食べたそれは、少し酸味が強いように感じた。
「最近学校はどう?」
「お友達は?できた?」
「その茶髪も見慣れてきたらいい感じに見えてくるなあ」
食べている間も本当に病人か?と言いたくなるくらいに話が止まらない。
「……病人なんだから少しは黙れよ。母さん」
「あら、いいじゃない。なっちゃんとゆっくりお話しできるなんてなかなか無いんだもの。まだまだ話し足りないくらい」
「……ソウデスカ」
──目の前でみかんを食べている俺の母親は、俺が中学一年のころからずっとこの病院に入院している。



