手を繋いで、君と前を向く。

「あ……今日は帰ってこないから大丈夫です」

「は?」

「うち母子家庭で。お母さん、今日夜勤だから」

「……そうか」

「うん。何かありました?」


気になって聞いてみると、九条くんは言いたくなさそうに口を閉じた。

だけど、もう一度首を傾げて見つめてみると、諦めたようにため息をついてから


「いや、半強制的に連れてこられたとは言え、勝手に上がり込んだわけだからな。その……挨拶とかした方がいいだろ」


と、あまりにも似合わないようなことを言うものだから、驚いて言葉を失う。


「……なんだよ」

「いや……なんか、意外だなって思って……」

「あ?」

「九条くんって、そういう礼儀とかどうでもよさそうに考えてそうだったから……」

「……お前、本当に思ったことなんでも言うのな。少しはオブラートに包むとか知らねぇのかよ」

「あ……ごめんなさい」


また思ったことを口にしてしまった……。

だけど、あの時した話を覚えていてくれたのが少し嬉しくも思う。