――平和。
それは、ここしばらくの俺たちとは無縁だった言葉。
王都を出てからまだたった三週間弱なのに、俺たちから遠く離れてしまっていた言葉。
ありふれた日常。少し前まで、信じて疑わなかったもの。
それが今は、とても特別でありがたいものだと感じられる。
「ほんと……平和だよな。俺たちちょっと前まで、毎日こんな感じで過ごしてたんだよな」
サミュエルの加護によって守られた王都はどこまでも平和で、たとえ戦争になろうと戦うのは職業軍人のこの世界。
人相手だろうと、魔物相手だろうと、王侯貴族の俺たちが戦わされることはない。
俺たちはそんな、享受された平和の中で生きてきた。その日常を信じて疑わなかった。
けれど今は、その平和を必死に守ってくれている人たちがいることを知った。
平和であることが、当たり前ではないことを知った。
ここがゲームの世界であろうとなかろうと、それは変わらない。
だから俺は、今このときだけかもしれない平和を噛みしめるのだ。
「なぁ、ユリシーズ」
「うん?」
「俺……本気で頑張ってみるわ」
「……え? 何を?」
魔力の循環が良くなったせいなのか、ここ数日の間に急激に思い出した前世の記憶。
妹に付き合って部分的にプレイしたゲームの内容。妹が俺に話して聞かせたシナリオの一部。
それから、アレクがラスボスとして殺される間際に放った最後の台詞。(妹談。脚色あり)
それらの情報と、アレクの置かれていた状況を勘案して導き出した答え――それは、アレクは何者かに嵌められてラスボスと化したのだということ。
真のラスボスは別にいるということだった。
つまり、そいつを見つけ出さない限り本当のハッピーエンドは有り得ない。
ゲームではアレクが殺されてハッピーエンドを迎えたが、それはあくまで恋愛ゲームとしてのハッピーエンドなだけであって、この世界のハッピーエンドというわけではないのだ。



