一方の俺は、苦しげに速い呼吸を繰り返すリリアーナを、自分の胸に抱き寄せていた。
苦しい、助けて――と、焦点の合わない瞳で縋りつくリリアーナを、俺は優しく抱きしめる。
「大丈夫、もう大丈夫だ。怖かったな、リリアーナ。でも、もう大丈夫だから」
――アレクの記憶の中のリリアーナ。
それは、確かに呼吸困難には違いなくて。実際に、意識を失ったことも何度もあって。
だが、俺は今直接リリアーナを目の当たりにして、これが過呼吸であると判断した。
俺は医者でもないし看護師でもない。医療の知識なんてない。だから絶対とは言えないが、でもそうである可能性が高い。
どちらにせよ、原因が強いストレスであることには変わりない。
俺はリリアーナを抱きしめ、そっと背中をさする。
「怖くない、怖くない。俺はここにいるし、皆もいる。だから安心しろ、俺がちゃんと守ってやるから」
「……っ」
溢れんばかりの涙を流しながら、早い呼吸を繰り返すリリアーナに、俺は声をかけ続ける。
「ゆっくり息を吐くんだ。ゆっくり――ゆっくり。俺の心臓の音に合わせて、ゆっくり息を吐くんだ、リリアーナ」
俺はリリアーナを抱きしめる。
大蛇の姿がリリアーナの視界に入らないよう、しっかりと抱きしめる。
大蛇の奇声が、残酷な戦闘音が決して聞こえないよう、リリアーナの片耳を塞ぎ、もう片方の耳に俺の胸の鼓動を聞かせる。
「大丈夫、もう何も怖くない」――そう何度も繰り返す。
リリアーナの呼吸が落ち着くまで……何度も、何度でも。



