蒼井君と会うには、次の雨の日を待つしかなかった。
でも、梅雨のはずなのに、雨は、やって来ない。
気づけば、七月になった。七月に入ると本格的な夏の暑さがやってきて、プールの授業が待ち遠しい毎日だった。それでも、まだ、雨は、やって来ない。
七月も下旬に差し掛かった頃、突然、チャンスがやってきた。
朝のホームルームの連絡で、先生が言った。
「放課後、雨が降ったら、部活は中止だ」
「雨か、部活、無くなるな。ラッキー」
「私、今日の練習、早くやりたかったのに」
突然の雨の予告に、クラスメイトは、賛否両論。
先生、今、雨が降ったら、って言った。
もしかしたら、蒼井君に会えるかもしれない。
蒼井君に会いたい。
そう思ったら、授業に集中できなくて、半日、空を見上げて、過ごした。
早く、雨、降らないかな。
正午を過ぎた頃、空に灰色の雲が広がってきていた。
そして、午後の授業が始まって、すぐに、雨が降り始めた。
「雨、降ってきたから、放課後の部活、中止な」
そんな連絡よりも早く、蒼井君に会いたかった。
放課後になると、私は、一目散に荷物をまとめて、教室を飛び出した。
私は、空き教室をひたすら、周る。
「ここにも居ない」
もしかして、もう、会えない...。
嫌だ。そんなの、嫌だ!
私は、教室の窓から空を見上げて、願った。
蒼井君に会いたい。
「夜川」
後ろから、声がした。
久しぶりに聞いた、ずっと、聞きたかった声が私の名前を呼んだ。
振り向くと、蒼井君が居た。
「蒼井君!」
「急に飛びつくなよ」
「だって、探しても居ないから!」
「今、来たところだったんだ」
「それでも、蒼井君に早く、会いたかったから」
「まじない、教えただろ?」
「そうだけど、忘れてて、探しまわってたの」
「ちゃんと、使ってたじゃん。だから、俺、ここに来れたんだけど?」
「えっ」
「だから、夜川がまじないを使ったから、俺は、ここに居るの。分かった?」
蒼井君が言ってる事は、よく、わからない。だけど、今、ここに蒼井君が居る。それだけでよかった。
「...分かった」
「よし」
「蒼井君」
「何?」
「会いたかった」
「そんな直球で言ってくるなんて、そんなに寂しかったのか?」
「うん」
「素直だな」
蒼井君は、考え込んだ末に口を開いた。
「お前は、一人じゃない」
その言葉は、どこかで、私の心の中を見透かしてるようだった。
「うん」
私の頬に涙が伝う。
「なんで、泣いてるんだよ」
「わかんない。だけど、蒼井君が優しいから」
「...夜川が言うなら、そうなんだろうな」
「うん、優しいよ」
私の言葉に応えるように、蒼井君は、私を抱きしめた。
「涙、止まるまでだからな」
そして、私は、蒼井君の胸の中で静かに泣いた。