君に会うために僕は

翌日。

結局また放課後は晃星くんに付き合ってもらいデッサンを進めていた。
デッサンの方も何とか形になってきた。今日でだいぶ進むと思う。
仕上げは晃星くんいなくても大丈夫かな…。

でもやっぱ白と黒の強弱で絵を完成させるのって本当難しい。
色を使って表現する方が私は好き。

このデッサンが完成したら新入生は油絵具を使った絵を描くって顧問の先生が言っていたので、とても楽しみだ。水彩画は沢山描いたことがあるけど、まだ油絵は経験がない。キャンバスに描くのってずっと憧れだった。

「紗月、楽しそうだね」

「え?」

顔をあげると、先ほどまで図鑑に集中していてしばらく口を閉ざしていた晃星さんが頬杖をついてこちらを見ていた。

「絵を描く時の紗月はいつも以上にキラキラしてるよね」

「え?え?…そ、そうですか…?」

思わず彼から目を背けてしまう。あまりに突然の発言だったので動揺してしまった。
なんか恥ずかしい…。絵描きながら二ヤついていたのかな。

「…あれ、これ俺が変態みたい?…だな」

「いや…そんなことは。…ニヤついてましたか?私…」

「まぁ、そうだね…とにかく楽しそうだな…て見てて思った」

…穴があったら入りたいとはこのことか。
私、絵を描くときニヤついてるの?恥ずかしい…。全然気が付かなかった。

「別に照れなくても大丈夫だよ。…普通に可…」

晃星くんははっとした表情をしたのちに黙ってしまった。
心なしか彼の顔が少し赤くなっているようにも感じる。

「え…?」

思わず声を出してしまった。
驚きすぎて顔の熱が一気に下がった。

彼の言葉の後に続く言葉に思い当たる節はあるけれど、これはどう反応するのが正解なの?
それにその答えが本当に合っているのかもわからない。

聞き返すのもなんか違う気がするし…。

「…可愛いな…て思ったんだ…」

晃星くんは私から目を背け口元を抑えながらこう言った。
予想通りの言葉が返ってきて思わず唖然とした。

「その、深い意味はなくて…そんな驚かなくていいよ」

「あ…な、なる…ほど?」

深い意味はない…ということはおそらく恋愛感情ではないということだろう。
ほっと胸を撫でおろす。ルナちゃんの顔が頭をよぎった。

「ごめん、口にするつもりはなかったんだけど…」

「び、びっくりしちゃいました…。えへへ…。あ、ありがとうございます、でいいんですかね?」

私はわざとらしく笑った。
本当にルナちゃんがいなくてよかった。勘違いさせてしまうかもしれない。
…いたらどうなっていたか想像するだけで悪寒がした。

それにしても晃星くんこういうのさらっといえるタイプなんだな。
ルナちゃんはこういうところに惹かれたんだろうか。

晃星くんは一度軽く深呼吸をして話を続けた。

「…図鑑をさ、実はもう読み終わってて。いや、この図鑑は何回でも読めるくらい素晴らしいんだけど。…ふと、顔をあげる機会が増えてさ、絵を描いている紗月がよく目に入ってきて…。表情がさ、コロコロ変わるの自分で気づいてる?本当に楽しそうなんだよ。絵が本当に好きなんだなって…それで…」

「あの、それ以上は、勘弁してもらえませんか?」

「え」

「せっかく落ち着いたのに!恥ずかしすぎて死にそうなんですけど…」

晃星くんは私のことを見るとあははと笑った。
私の顔の熱は再度上がった。顔から火が出てしまいそうだ。

「耳まで赤い」

「晃星くん!」

「ごめんて…まぁ、この間の仕返しってことで」

「…この間?」

「絵のモデルの話をした時、俺も相当恥ずかしい思いをしたからさ」

晃星くんをモデルに絵を描こうとしたときのことを思い出した。
…確かにあの時は晃星くんが顔を真っ赤にしていたっけ…。

「…まぁ、その…図鑑の件は気づかずにごめんなさい。今日でおそらくほぼ形になるので、明日は大丈夫です。天文部の部活動もありますし…。ありがとうございました。なのでもう少しだけお付き合いいただけたらと…」

「いや、この時間が嫌いだったわけじゃないんだ。むしろ楽しかったよ。終わっちゃうなんて残念なくらい」

その言葉に胸が高鳴った。…私もこの時間結構好きだった。
とても短い時間ではあったけれど。晃星くんも同じだったんだ。

「…それはよかったです」

「ま、これが終わったら次は天文部で、だね」

「はい…。そうですね」

そこから部活終了のチャイムが鳴るまで、私たちは一言も話さなかった。
絵に集中していたのもあるけど、この瞬間を深く味わいたかったのもあるかもしれない。

私の絵はほぼ形になった。あともう少し…かな。
晃星くんに絵を見せたら少し恥ずかしそうにしながら「いいんじゃね」と言ってくれた。

美術室を出るとき、

あぁ、この時間終わっちゃったなって思って

少し寂しく感じたのは。内緒。