君に会うために僕は

『これからを一緒に過ごしていく人には伝えてみてもいいんじゃないかなって、先生は思うよ』

病院からの帰り道、ずっと結城先生の言葉が頭の中を反芻していた。
一緒に過ごす人って?今まではそんなこと一度も言わなかったのに…。

ルナちゃんのこと?…まさか、優斗先輩?
こんな個人的なことに付き合わせてしまうのなんて申し訳ない。
ましてや優斗先輩になんて伝えたら両親にバレてしまうかもしれない。

これは私のことなんだから私が一人でやり遂げるべき。
…絶対そうに決まっている。


暖かくなってきたとはいえ、夜はすこし肌寒い。
病院に行くことを忘れていたので羽織るものを持ってこなかった。
薄手のセーターでは初春の夜の肌寒さを防ぐには少し心許なかった。

病院から家まではさほど遠くないので、診察後は毎回徒歩で帰っている。
心配性のお母さんは毎度迎えに来ようとするが迷惑をかけたくないのと、帰りの車で診察のことを根掘り葉掘り質問されるのが嫌になったので断るようにしていた。

「…今日くらいは迎えに来てもらえばよかった」

まぁ、もう迎えに来てもらうほど距離はない。ここを曲がった川沿いの桜並木の道を10分ほど歩けば家に着く。

1か月前までは満開に咲いていた桜たちももう散って、緑の葉が見え始めている。
ついこの間まで足元を埋め尽くしていた花びらもほとんどなくなっていた。

「あぁーもう一か月たつのにあまり記憶探しできてないなぁ…」

結局行けたのは入学初日の児童館だけ。
そのあと部活動の掛け持ちだったり、ルナちゃんと遊びに行ったり、家の用事だったりでなんだかんだ行くことができていない。

「…とにかくはやくデッサン終わらせなきゃな…。結局今日も進まなかったし…」

技術力がないので時間でカバーするしかなく他の人に比べ本当に時間がかかる。
部活動以外の時間でも描くしかない。

前回は静物デッサンだったからよかったけれど、今回は晃星さんを巻き込んでしまっているのでゆっくりはしていられない。

明日明後日くらいでとにかく形になればよいのだけど…。

ジャリッ

足元で何かの音が聞こえた。

「…?え、なんか踏んだ?」

思わず立ち止まり自分の足元を確認する。
そこにはアクセサリーが落ちていた。

シルバーで10円玉くらいの大きさの三日月のチャームが付いたもの。どうやらブレスレットのようだ。踏んでしまったが壊れていないようで一安心した。

「これ以上踏まれないようにこの柵に引っ掛けておこうかな…誰かの大切なものだったら嫌だし…。ここに引っ掛けて置いたら落とし主が気づいてくれるかも…」

私はブレスレットをつまみ上げる。

「…なんか見たことあるような…ないような…」

まぁ、三日月モチーフのアクセサリーなんてごまんとあるだろうしどっかで見たようなのを見たことがあるかもしれない。よく見ると、三日月の部分に何やら文字があるのに気が付いた。スマートフォンのライトをつけ、文字を照らした。

「s、y、z、y、g、y…これなんて意味なんだろう…」

スマートフォンで検索をかける。

「…えっと朔…望…?あ、月の満ち欠けのことを言うんだ。…ん?」

検索サイトに戻りそのままスクロールすると一軒のお店がヒットしていた。
『syzygy』という名前のアクセサリーショップがどうやらあるらしい…。

「これ…高校の近くだ。もしかしてこのブレスレットもそこで売っているものなのかも…」

試しにSNSでも検索をかけてみる。
すると、天体をモチーフにしたアクセサリーを主に販売していることが分かった。

「へぇ…可愛いなぁ。今度、ルナちゃんでも誘って行ってみようかな…」

天体モチーフなら晃星くんも興味あるかもしれないし、試しに誘ってみようかな。晃星くんと一緒に放課後出かけられたらルナちゃんもうれしいかも。…緊張しすぎで倒れなきゃいいけど。

っていうかこんなことしてるから記憶探しが進まないんだよな…。
遊びに行くのもいいけど本題を忘れないようにしないと。

「まぁ、とりあえずこれ置いて早く帰ろう。これ以上遅くなるとまずい」

ブレスレットを近くの柵に引っ掛けた。…持ち主の人、見つかるといいね。


桜並木を抜けると、もうすぐ我が家だ。

「…今まで気にしたことなかったけど…」

桜並木を向けたことで視界を遮るものがなくなって星空が良く見えた。
今度春の星座の見つけ方を晃星くんに聞いてみようか。

…あの夢の中でみた星空はもっときれいだった。
いつかあの星空をあの時一緒にいた”あの子”と再び見ることはできるんだろうか。