「……もう、ここまできてしまったんです。後悔などありません」
私は微笑んで見せる。
これが精一杯の見栄張りだった。
「……お前の父親は、鬼族の長だ」
折成さんは思考しながら教えてくれた。
「笹野家の娘は嫁入りという名目で生贄に出されるが、実際に長との赤子を産むのを繰り返している」
「それが今でいう私ですね」
「あぁ」
折成さんは頷いて続ける。
「娘に妊娠がわかると村へ帰され、里より安全だからと宮守の元で子育てをしていた」
裏で鬼族と繋がっていた宮守の傍に置いておく事で、鬼族が居なくとも問題なく済んでいた。
(管理、かぁ…)
改めて考えると、人間として見られていた訳では無かったのだと、少しばかり哀しくなった。
そして、長の妻となった娘は然るべき時が来ると、本当の生贄として長の一部となる。身を捧げて死を遂げ、意識と本来の寿命を吸い取られていたのだ。
産んだ子供がまた成長し、十七になると新たに宮守から嫁いでくる。それの繰り返しで里の安寧が保たれていた。
「…鬼族は長の存在が絶対だからな。生贄が必要だと思ってる奴らが大半だろうよ」
俺には理解できないが、と付け足しながら折成さんは溜息を吐いた。
「お母様は確か…、私が四歳の頃に亡くなったと昂枝から聞いたわ。でも、記憶がほとんど残ってないの」
「お前の母親はそうだったな…。捧げられる時ってのは、なんていうか…その時次第で時期を決められないからな」
「…とはいえ、全て順当だったんですね。もうすぐ私も十七になりますし」
「あぁ、だから狐はお前のところへ現れたんだろうよ」
「…深守」
私は今、大変な目にあっている彼を思い浮かべて瞼を強く閉じる。
どうか、どうか再会出来ますように――。
そう、私の場合は深守との出会いにより例外となったが、嫁ぎ先が決まり鬼族の元へ行く際は、一般的な政略結婚と同じ順序を辿るという。生贄ということを知らされず、ただ普通に鬼族の元へ身を寄せるだけ。
母や、会ったことのないご先祖様はきっと、この事を殆ど知らないまま人生を終えていたのだろう。
(でも最期は、一人ぼっちで苦しんだのかしら…)
お母様達のことを考えたら、心臓が絞られるような感覚に陥った。
宮守の家の中でしか過ごしてこなかった私は生きることへの執着がなかったのもあり、鬼族の為になるのならと今となっては考えてしまう。しかし、お母様はどうだっただろう。病に朽ちるならまだ仕方ないと思えるかもしれないけれど、そうではないのに子を置いて死ぬという、最後の最後で知らされる現実を受け止め切れるだろうか。
夫に呼ばれ鬼族の里へ戻ったと思えば、いとも簡単に殺されるだなんて考えたくもない。
(ごめんなさい、お母様…)
私は罪悪感に苛まれた。生きていれば何とでもなるのに、死にたいと願ってしまった自分がいる事が。生きたくても生きられなかった彼女達に示しがつかない。
自分は笹野家の為にも、最後の人間にならなければならない。この先産まれるかもしれない子供に幸せを与える為にも――絶対に。

