「―――!!」
「あ、海祢…さん…」
大きな溜息を吐きながら、海祢さんは「静かに」と人差し指を口に当てた。
「聞きたいことは山程ありますが、とりあえずこちらへ」
見つかってしまったが故に断る理由も拒否権もなく、私達は大人しく海祢さんの後へ続く。海祢さんは辺りを見回しながら近くの小屋へ向かうと、中へ入るのを促した。
狙いを定めていたそこは、残念ながら鍵さえ付いていない、ただの物置となっている場所だった。
「――それでお二人は何故此処へ? …と言ってもまぁ、十中八九想埜と妖狐の件でしょうが」
「話が早いのは助かる」
「……すみませんが、お返しする事は出来ません。お気持ちは、勿論わかりますが」
「理解して下さるのにどうして…。先程も思いましたが海祢さんは、他の方とは違って見えます」
宮守家と昂枝、鬼族と折成さん、そして妖葬班と海祢さん。
彼らはそれぞれの世界にいて、それぞれの人生を辿っている。だけどそれは、必ずしも自分の為ではない。
海祢さんもまた、そこの世界の人とは違って見えた。
「僕は貴女が思う程良い人間ではないので。…早くお帰りになった方がよろしいかと」
顔を合わせようとせず、右手で左腕を擦りながら答える。
「俺達はあいつらを取り返すまで帰れねぇんだよ」
「……無理ですよ。お二人には。万が一場所が掴めたとしても、きっと生きて帰れない。――お願いですから、今なら見逃すので家に」
「……家には帰れないんだよ、どの道」
「………」
「…あーって顔をするな。大体お前らのせいだろうが」
たった数刻前だそ。と腕を組む海祢さんに向かい昂枝は憤りを露わにする。
「お前達のせいであいつらは――妖達は日常を奪われてるんだからな」
「それは村の安全の為です。…妖から村人を守るのが僕達の仕事ですから」
海祢さんは引き戸を開け、私達を外へ連れ出そうとしたその瞬間の事だった。
海祢さんは目の前に現れた折成さんを見て息を飲む。音を立てず、静かに佇むその姿に手も足も出なくなっていた。
「せ、折成さん…!」
私は無事だったことに安堵する。だが、影になっていて気づかなかった無数の傷に言葉を失った。
彼は一言も発することなく自身より低い引き戸をくぐり抜けながら、その力強い腕力で海祢さんを横へ退かす。
「おま……大丈夫なのかよ」
昂枝も折成さんを見て心配そうに様子を伺う。
「――――」

