お茶と妖狐と憩いの場

 内部事情を詳しく聞いていない私は頭を拈った。昂枝は口を閉ざしてしまったし。
 とはいえ、海萊さんがこちら側に付いてくれるとなると、かなりの大助かりだ。村の中では信頼度が高い彼だからこそ、出来る事は沢山ある。
 前に進んでいる気がする。
 だから落ち着くまでは、多少住みやすい鬼族の里でお世話になり、村と里を行き来する生活を続けて、鬼族の長についても――そのうち良い返事が出来るよう、考えなくてはならない。多分……。
 そもそも、ノコノコと宮守へ戻っても、どう接したら良いのかもわからない。
(でも、昂枝がきっと口酸っぱくご両親を説得してそうね)
 ここも少しずつ、関係を戻していこうと思っている。
「結望姉~!」 
「わぁっ」
 考え事中突然現れた成希さんに、私は身を捩って驚いてしまう。
「結望姉考え事? 鬼族のお姫様なってくれる準備できた?」
 成希さんは背中から抱き着きながら言った。
 一緒に来たであろう折成さんは「コラ成希」と首根っこを掴んで引き剥がした。
「えー、いいじゃん私結望姉好きだもん」
「良くない」
「ケチ」
「……お前も言うようになったな」
 あはは、と成希さんが笑う。
 すっかり日常が戻ったみたいで、微笑ましい雰囲気だ。
「――失礼いたします」
 そして襖を開けて私の元へやって来た人がもう一人。
「ご無沙汰しております。結望様」
「あ、黄豊さん」
 名前を呼ぶと、黄豊さんはにっこりと微笑んだ。
 襖をそっと閉じて、私の座っている文机の前へやって来ると、静かに腰を下ろす。
「中々お会い出来ず申し訳ございません」
「い、いえ、黄豊さんこそ……お忙しくありませんか?」
「有難いことに、少しだけですが」
 彼女は羅刹様の死後、男性達と共に社の改修作業を行っていた。設計図は勿論あるが、間取りなどを明確に覚えている記憶力を持つ彼女は、現場で大活躍しているそう。
「それで、何かあったんですか……?」
 私は筆を置くと、黄豊さんを見据えた。
「結望様にお返ししたいものがございまして。機会を伺っていたのですが……今になってしまいました」
 そう言うと、彼女は小さな木箱を差し出した。
「木箱……?」両手で受け取りながら呟く。
「貴女様の大切なお品物です。…きっと命より大切な物かと」
 私は木箱の蓋をそっと開ける。そこには、あの時返して貰えなかった、深守がくれた小さな笛が入っていた。