お茶と妖狐と憩いの場

「……っ、ゆ……のねぇ……怖かった……。怖かったよう……ぅっ……ひくっ……」
「うん、うん……。もう、全部終わったよ」
 だけどそんな彼女が流した涙を見て、私は断腸の思いに包まれた。空砂さんのした事が、如何に許されざる行為だったか改めて考えさせられる。彼女達の家族を殺め、人質に取り……。そんなの、里を統べる者の一人として絶対にやってはいけない事だ。それを許していた貴人達も同罪だ。
「ゆのねぇ、……も……っ生きてて……よかった……」
「えぇ……本当に、良かった……」私はぎゅっと成希さんを抱き締めながら言う。「神様のお陰で……、今の私はいるんだよ」
「かみ、さま……?」
 成希さんは私の顔を見詰めながら首を傾げた。
「そう、神様。狐の……神様なの」
 深守を見ながら言った。
 折成さんは私の横にしゃがむと「これが神様基狐婆だ」と、自身が抱える深守に指を差した。
「きつね、ばばあ……?」
「ぶっ」
「ちょっと昂枝まで……!」成希さんの復唱に、傍で見守っていた昂枝はまた変な壺に嵌ってしまった。私は少しだけ怒りを露わにして制する。
 全く、終わったからって呑気な人達だ。
「……もう、深守が返事出来ないからって、二人共弄っちゃだめです。ごめんね、深守……」
 折成さんから深守を取り返すと謝罪をした。
 あぁ、温かい――。
 例えどんな姿でも深守の温もりは変わらない。
「あ、あの……っ」
 私達のやり取りを近くで見ていた少しばかり白髪の生えた女性が、意を決したように声を掛けてきた。
「母上」
「お袋……?」
「あ……あの、結望さん……ですよね」
 二人の反応から母親だとわかる女性は膝を折ると、深々と平身低頭して謝罪の言葉を述べた。
「……大変、申し訳ございませんでした」
「ま、待って下さい……私はそんな――」
「いえ、結望さんの……ご家族、ご先祖を私共が殺めたといっても過言ではありません。何より……、貴女をも見捨てようとしました。こんな事絶対に許してはなりません。許して貰おうなんて甘い事も考えておりません」
「結望、改めて俺からも言わせて貰う。すまなかった」
 家族総出で謝る姿に、私は「謝るのを辞めて顔を上げてください」と首を横に振った。
「私は、本当に気にしていません……。勿論、生贄だったのは悲しいですけど、折成さん達は何も悪くありません。同じ被害者です」
 折成さんのお母様を見つめながら、
「だから……、一緒に手を取り合って生きていきませんか……?」
 と私は微笑んだ――。