お茶と妖狐と憩いの場

「……ん……」
 私は重たい瞼をゆっくりと開くと、ぱちぱちと上下させた。
 空砂さんによって生死をさ迷った私は、何とか生き延びたようだった。これも、深守のお陰だろう。
「目覚めたか」
「心配したぞ……!」
 私を覗き込みながら、折成さんと昂枝は嬉しそうに声を掛けた。
 傍で祈るようにしていた想埜も海祢さんも、ほっと胸を撫で下ろす。
「よかった……。よかったよ結望~……」
「本当に……」
 彼らの言葉に耳を傾けながら、私はそのままの体勢で辺りを見渡す。
 そして、ある違和感を覚えた。
「……あ……れ、深守……は」
 四人は視界に入ってくるのに、深守の姿だけ見えなかった。
 彼が居るならば、いの一番に賑やかになりそうなのに。一言も発しないどころか、視界の中にいないなんて。
「馬鹿狐は……」昂枝は小さく言った。「あいつはすぐそこだ」
 私の直ぐ傍を指差すと、大きく溜息を吐いた。昂枝の一言で、最悪の事態を感じ取ってしまう。私は少しだけ痛む腹部を押さえながら、昂枝に支えられて上半身を起こした。
 そして、狐の姿で動かない深守を目の当たりにする。
「し、深守……っ!」
 私は彼の名前を呼んだ。無理に抱き上げるのは負担になると思い、身を屈めて声を掛けた。
「深守っ……深守……、結望は目覚めましたよ」
 深守の手を――前足をそっと握り締めて「貴方のお陰で、命を繋ぎ止めました。……深守も起きて下さい……一緒に、帰りましょう」と抱き留める様に言った。
 だけど深守は返事をしない。
 ただ、身体を上下させながら寝息を立てるだけだ。
「深守は……、力を使い切ってしまったの……? 私なんかの、為に……?」
 私は今にも泣き出しそうになりながら、深守の身体を揺すった。
「お前だからだ。狐は……、お前だから最後の力を使った」折成さんは私の背中から声をかける。「愛してたんだろうよ、お前を」
「……っ」その一言で涙が溢れ出す。
「……でもよ、妖は死んである程度時が経てばサラサラの灰となって消える。そこら辺に放っておいても良いくらいだ。だが……、力を使い切ったはずの狐の鼓動は何故か止まっちゃいねぇ……。こいつはまだ死んでねぇんだ」
 私の肩に折成さんは優しく手を置くと「……きっと、お前の事が心残りなんだろうよ。意地になるほどにな……目覚めを待ってやれ。そんでもって、笑顔で出迎えてやるんだ」と微笑んだ。