お茶と妖狐と憩いの場

 彼らは思い立った様に話し始める。
 どうやら彼らは、羅刹様が空砂さんを選んだ事に喜んでいるようだった。ただ、生贄の仕来りに懲り懲りしているというよりは、笹野結望の代わりになる存在がいれば良い――という意味合いだったけれど。
「……逃げ場が無くなりましたね、彼」
 海祢さんは静かに言った。
「でも……、どうするんだろう」と、想埜は海祢さんの方を向く。
「……ここまで来たら見守るしか、ないかもね」
「…………」
 心配そうな想埜の左肩を海祢さんはぽんぽんと優しく叩くと、先程海萊さんが腰を下ろしていた木箱に腰を下ろさせた。
「……っ何故じゃ、何故……抜け出せぬのじゃ」
 羅刹様は逃げ出そうと幾度となく試みるが、やはり動けずにいた。
 その間にも羅刹様は、黒い霧の様なもので空砂さんをがっちりと固定してしまう。絶対にもう逃げられないと確信した彼は、実の父親である羅刹様を目の前に初めて絶望の色を見せた。
『……さぁ、空砂よ。その刀で貫くが良い』
 威厳に満ちた声で鬼族の長は言った。
 空砂さんの身体が、空砂さんの意思とは反対に動き出す。刀を両手で構えると「やり直せぬのか……」と、反抗する度にガクガクと揺れる手を見詰める。
「……っ」
 私は咄嗟に深守に抱き着いた。
 いくら敵で、忌み嫌う人達が多い存在でも、彼にも意思があって己の信じるままに生きてきたのだから、死ぬところなんて見たくなかった。本当ならば全員生きるべきなのは変わらない。
 だけど、羅刹様の意向に従うのも里で生きるなら大切で、長が決めた事に反論することは出来なかった。
「結望」
 深守は私を離さんとばかりに抱き締める。

 ――そして、その時はやってくる。

 深守に抱き締められて、目を閉じて、それから腹部に鋭い痛みが走った。
「……っ結望!!!」
 猛烈な痛みと、脱力感に直ぐさま目を開ける。視界が少し不鮮明だったけれど、深守が私の事を血相を変えて見ているのがわかった。
「え……」
 私は自身の腹部の違和感と、ぬるっとした感触に言葉を失った。
「儂が……、儂が、死ぬべきならば……一族諸共滅べば良いのじゃ。……故に、お前も共に死ね、生贄」
 空砂さんは羅刹様を貫きながら言った。貫いている彼もまた、腹部を赤く染めている。
「やはり……他人には作用するのう、この力は……」
 そう言いながら空砂さんは、羅刹様の力が弱った事を良い事に刀を引き抜いた。
「いっ……!」
「結望……っ!! 待って頂戴今すぐ治すから……っ、死んじゃ嫌よ」