「……羅刹様」
『……のう、空砂よ。直接対話をするのは久方ぶりじゃな』
社の奥、神様を祀る様に厳重に管理され、姿を目の当たりにする事は出来ないが、しっかりと声が聞こえてくる。年齢は不確かだが、人間で考えた際不惑程のように思えた。鬼族としての品格と威厳さを持ち合わせていて、そしてその声は、確かに眠っている間に聞いた声と同じだった。
私は隣にいる深守に「羅刹様だわ……」と呟く。
空砂さんは私と違い、はっきりと意識のある状態で羅刹様と向き合っていた。何より、物静かな雰囲気の彼が、少しだけだけれど焦った様子にも見えた。
「羅刹様、儂は何も間違っておらぬ……、儂は鬼族の為に生きてきたのじゃから」
『お主が鬼族を愛しておるのは知っておる……。我が息子として苦労を掛けていることもな』
労いの言葉を伝える羅刹様は、自身の知る鬼族とは思えない程優しく、あたたかみのある声音で語りかけた。
「息子……っ!?」昂枝は驚いて声を上げる。「……折成お前は知っていたのか?」
「いや、初めて知った……」
折成さんはこめかみを掻きながら答えた。
それに対して想埜は口を抑えながら、
「え……、という事は結望と異母兄妹……ってこと?」
「……本気かよ」
「……知りたくなかったな」
昂枝と折成さんはにわかに信じ難いといった様子で頭を抱えた。
「は? つまりなんだ……テメェの実の妹達を生贄にってか? ……頭がいかれてるっ!」
昂枝は自身の太ももを強く殴る。怒りの矛先を身の内に抑えて、何とか理性を保つ。
空砂さんは我々の言葉等に耳を傾ける事はせず、羅刹様と対話を続ける。
「羅刹様、死にたいと仰ったのは本当か? ……羅刹様が死にたいと言ったのも所詮、……生贄が吐いた嘘じゃろう……?」
『……空砂よ、あの娘は嘘を吐いておらぬ』羅刹様は静かに、そして、切実な声で伝えた。『……私はもう、疲れてしまったのじゃ……』
「―――」
『確かに、生きねばならぬ。私が長生きして、鬼族を守っていかねばならぬ――そう思っていた時期もあった。……それ故過ちも犯した事もある。じゃが……、私の中へ入ってきた生贄の意識と対話していく内に、私は間違っていたと。……そう感じたのじゃ』
羅刹様は祠から出てくると、空砂さんの方へ歩み寄るのが見えた。
――とはいえ正確には実態が無いのだけれど、婚礼の時に見た朧気で、灰色でいて紫色の様な気配を纏わせたその姿を、空砂さんの方へ行くのを瞳が捉えていたのだ。
「では……儂は、いつから間違っていたと言うのじゃ。今までのは……無意味じゃったと」
『そうでは無い。そうでは無いのじゃ空砂よ』
羅刹様は空砂さんの手を取る。
『私はお主に救われておるのじゃ…。二つの血が流れるお前は、どちらの力も大切にしてくれたであろう』
「……儂は――」
「おい。ちょっと待て」昂枝は手を挙げて、二人の会話を遮る。「話についていけん。空砂、お前は一体何者なんだ」
昂枝は刀を持ったままの状態で、空砂さんの方へと一歩踏み出した。
『……のう、空砂よ。直接対話をするのは久方ぶりじゃな』
社の奥、神様を祀る様に厳重に管理され、姿を目の当たりにする事は出来ないが、しっかりと声が聞こえてくる。年齢は不確かだが、人間で考えた際不惑程のように思えた。鬼族としての品格と威厳さを持ち合わせていて、そしてその声は、確かに眠っている間に聞いた声と同じだった。
私は隣にいる深守に「羅刹様だわ……」と呟く。
空砂さんは私と違い、はっきりと意識のある状態で羅刹様と向き合っていた。何より、物静かな雰囲気の彼が、少しだけだけれど焦った様子にも見えた。
「羅刹様、儂は何も間違っておらぬ……、儂は鬼族の為に生きてきたのじゃから」
『お主が鬼族を愛しておるのは知っておる……。我が息子として苦労を掛けていることもな』
労いの言葉を伝える羅刹様は、自身の知る鬼族とは思えない程優しく、あたたかみのある声音で語りかけた。
「息子……っ!?」昂枝は驚いて声を上げる。「……折成お前は知っていたのか?」
「いや、初めて知った……」
折成さんはこめかみを掻きながら答えた。
それに対して想埜は口を抑えながら、
「え……、という事は結望と異母兄妹……ってこと?」
「……本気かよ」
「……知りたくなかったな」
昂枝と折成さんはにわかに信じ難いといった様子で頭を抱えた。
「は? つまりなんだ……テメェの実の妹達を生贄にってか? ……頭がいかれてるっ!」
昂枝は自身の太ももを強く殴る。怒りの矛先を身の内に抑えて、何とか理性を保つ。
空砂さんは我々の言葉等に耳を傾ける事はせず、羅刹様と対話を続ける。
「羅刹様、死にたいと仰ったのは本当か? ……羅刹様が死にたいと言ったのも所詮、……生贄が吐いた嘘じゃろう……?」
『……空砂よ、あの娘は嘘を吐いておらぬ』羅刹様は静かに、そして、切実な声で伝えた。『……私はもう、疲れてしまったのじゃ……』
「―――」
『確かに、生きねばならぬ。私が長生きして、鬼族を守っていかねばならぬ――そう思っていた時期もあった。……それ故過ちも犯した事もある。じゃが……、私の中へ入ってきた生贄の意識と対話していく内に、私は間違っていたと。……そう感じたのじゃ』
羅刹様は祠から出てくると、空砂さんの方へ歩み寄るのが見えた。
――とはいえ正確には実態が無いのだけれど、婚礼の時に見た朧気で、灰色でいて紫色の様な気配を纏わせたその姿を、空砂さんの方へ行くのを瞳が捉えていたのだ。
「では……儂は、いつから間違っていたと言うのじゃ。今までのは……無意味じゃったと」
『そうでは無い。そうでは無いのじゃ空砂よ』
羅刹様は空砂さんの手を取る。
『私はお主に救われておるのじゃ…。二つの血が流れるお前は、どちらの力も大切にしてくれたであろう』
「……儂は――」
「おい。ちょっと待て」昂枝は手を挙げて、二人の会話を遮る。「話についていけん。空砂、お前は一体何者なんだ」
昂枝は刀を持ったままの状態で、空砂さんの方へと一歩踏み出した。

