お茶と妖狐と憩いの場

「羅刹様、……羅刹様は鬼族の繁栄の為に力を尽くして下さる偉大なお方じゃ。そうであろう」
 社の奥で鎮座しているであろう長に空砂さんは声を掛ける。
 だけど長は直接話せる訳ではない。意思はあれど、身体も何もかも不安定な状態だ。声を掛けたところで返事は無い。
「……そうじゃ、儂が盃を飲めば羅刹様の言葉を直接聞けるであろう。飲み込まれた生贄の意識が邪魔をするのなら、儂が羅刹様の代わりとなろう」
 空砂さんは言いながら供えられていた盃を一気に飲み干した。それを見た鬼族の上役達は、戦う手をぱたりと止めてその場に平伏していく。全員が長と空砂さんを向きながら、何かを唱えていた。
 一体どういう事だと、昂枝達は戦うのを辞めた上役から避けるように私達の方へ集まってくる。海祢さんも実兄からの発砲に呆然と立ち尽くしていたが、想埜に手を取られながら輪に合流した。
「……盃を飲んだ者と長の意識を通じ合う。花嫁が結婚した時にやる儀式と同じだ」
 戦いで出来た左腕の傷を止血しながら、折成さんは私達に教えてくれた。私ははっとして、折成さんが自ら破った着物の布を預かると、代わりに傷口をキツく結ぶ。
「ども……」
「ううん、これくらいしか出来ないもの」
 ――そうこうしている内に、空砂さんが羅刹様の意識と繋がってしまった様で、辺りが重々しい圧力に包まれた。
「これが……、羅刹様……?」
 想埜は社に充満する靄を見渡しながら言った。
「そう、みたい……」靄に手を伸ばしながら海祢さんも答える。
 状況を飲み込む私達や、平伏す鬼族の上役の事は最早眼中に無い空砂さんは、一歩一歩踏み出しながら、羅刹様と会話を始めた。