お茶と妖狐と憩いの場


 鉄砲で血を流した鬼族の上役達が、突如として凶暴化し昂枝に襲いかかった。折成が既のところで追い払うが、次から次へとやってくる。
 これじゃあ、まるで振り出しに戻された状態ではないか。
「どういう事だよっ!」
「実験台だと言っただろう? よろしく頼むぞご子息さん」
 海萊さんは近くに置いてあった木箱に腰掛けると、己は戦わずして優雅に観戦を始めた。鉄砲をくるくると回しながら、その場に似つかわしくない鼻歌を口ずさむ。
 深守も、昂枝も、想埜も折成さんも、あれよあれよと鬼族に囲まれてしまった。先程までよりも力が増しているようで、かなり難航していた。その隙を突いてか、空砂さんは私の方へ視線を向けた。
「結望っ!」
 深守は気づいて抜け出そうとするが、鬼族の集団によって足止めを食らってしまう。
 私の前にいる深守が作った狐の式も、空砂さんへ視線を向けながら威嚇をするが、空砂さんにとってたかが式神だ。特に気に留めることをせず、こちらへと手を伸ばした。
「狐さん……っ」
 私は願った。深守が作った式だもの、きっと、大丈夫――。
「っ何……?」
 ビリッという音を耳が捉え前を見据えると、空砂さんが珍しく、驚いた表情を浮かべながら困惑しているのが確認できた。狐の式が力を発揮していたのだ。
 そして、それと同時にぷすり、と空砂さんの左脇腹に矢が刺さっている事にも気がついた。
「………」
「あ……」
 空砂さんは私から目を逸らすと、何も言わずに後ろを振り向く。
「――間に合いました、か?」
 矢を放った張本人は、弓を下ろしながら言った。
「海祢さん……っ!」
「お前何しに来た!」
 私が呼ぶのと同時に、海萊さんも叫ぶ。
 海祢さんは答えることなく勢い良く地面を蹴ると、腰に身に付けている刀を抜き、空砂さん目掛けて走り出す。彼も妖葬班の一員で、相当な実力者という事を実感させられる動きに圧倒された。
 海祢さんは私の前に狐と共に立つと、空砂さんの素早い動きを諸共せず対抗する。
「僕は……、やっぱり妖葬班には合わないようです」
 海萊さんへの返答なのか、海祢さんは動きを止めずに言葉を紡ぐ。
「なので、僕は皆さんを助ける為に戦います」
「何をふざけた事を……っ! お前は村の恥晒しになるつもりか」
「それでもいいです」
 海祢さんははっきりと宣言した。
 海萊さんはそれを聞いて「有り得ない」と、自身の髪の毛を掴む。
「何故村の為に働かない!? お前は何の為に鍛錬し、何の為に妖葬班になったと思っているんだ……っ! あれだけ優秀だと信頼を得ているのにも関わらず、何故――!!」
 そう言うが否や海萊さんは、先程までくるくると回していた鉄砲を、実の弟である海祢さんへ向け発砲した。
「――っ!」