紀江は宮守の元で結望を出産後、彼らが所有する森の奥の古民家へ移り住んだ。子育てをする為だ。今まで通り宮守で子育てをするのはダメなのか、そう問うたことがあるが、何でも決まりだそう。故に極たまに手伝いに来ることはあるが、基本は一人だった。何もかも初めての子育てに、紀江は身も心も疲弊していた。
今思えば生贄が死にたいと思える環境、いつ死んでも子供以外の未練がない状況…みたいな感じだったと紀江は語る。
いつかの深夜、結望を寝かしつけた後、紀江は耐えられず泣いてしまったことがあった。目の前に置いてあった湯呑みに、涙がぽつんと零れ落ちる。大好きな緑茶の表面に映る自分の顔が情けなくて、紀江は更に落ち込んだ。
(母失格だわ……)
愛娘はとてもいい子で、目に入れても痛くない程に可愛い。けれど、それだけじゃ耐えられない事の方が多い。
「……っふ……、ぅ……う……っごめんね、ごめんね……結望……っ……わたし、……どうしたらいいのか、もう……わからないの……」
すぐ傍で寝息を立てる結望に謝った。
頑張ってる。私はきっと頑張ってる。
自分に言い聞かせてきたけれど、今日だけは泣くのを許して欲しい。
「っ……誰か、助けてよ……」
紀江は両手で顔を覆いながら、流れる涙を受け止めていた。
「………」
その時人影が紀江を包み込んだ。
「……ぇ……?」
紀江は顔を上げると、人影の犯人を見据えた。
今でも絶妙だったと思う。狐が約束通りやって来たのだ。大きな身体に耳と尻尾、見た目に違いはあれど、それがあの時の狐だと紀江はすぐにわかった。
紀江は縋るように狐に手を伸ばす。
「かみ、さま……っ」
彼はそれを受け入れるように、そっと抱き締めて「大丈夫よ」と、紀江が落ち着くまでずっと背中をさすってくれた。
その日以来、狐は隙を突いては紀江の元へ現れて、結望の面倒を見てくれた。幼い結望はいつも好奇心旺盛で、元気いっぱいだった。狐姿の彼を見てはドタバタ。大きな彼を見ても無邪気に笑っていた。だけど、どうしても蛙だけは苦手のようだった。
今もそうなのかしら……? と紀江は笑う。狐もそんな結望の事が、我が子のように愛おしく感じてしまっていた。
今思えば生贄が死にたいと思える環境、いつ死んでも子供以外の未練がない状況…みたいな感じだったと紀江は語る。
いつかの深夜、結望を寝かしつけた後、紀江は耐えられず泣いてしまったことがあった。目の前に置いてあった湯呑みに、涙がぽつんと零れ落ちる。大好きな緑茶の表面に映る自分の顔が情けなくて、紀江は更に落ち込んだ。
(母失格だわ……)
愛娘はとてもいい子で、目に入れても痛くない程に可愛い。けれど、それだけじゃ耐えられない事の方が多い。
「……っふ……、ぅ……う……っごめんね、ごめんね……結望……っ……わたし、……どうしたらいいのか、もう……わからないの……」
すぐ傍で寝息を立てる結望に謝った。
頑張ってる。私はきっと頑張ってる。
自分に言い聞かせてきたけれど、今日だけは泣くのを許して欲しい。
「っ……誰か、助けてよ……」
紀江は両手で顔を覆いながら、流れる涙を受け止めていた。
「………」
その時人影が紀江を包み込んだ。
「……ぇ……?」
紀江は顔を上げると、人影の犯人を見据えた。
今でも絶妙だったと思う。狐が約束通りやって来たのだ。大きな身体に耳と尻尾、見た目に違いはあれど、それがあの時の狐だと紀江はすぐにわかった。
紀江は縋るように狐に手を伸ばす。
「かみ、さま……っ」
彼はそれを受け入れるように、そっと抱き締めて「大丈夫よ」と、紀江が落ち着くまでずっと背中をさすってくれた。
その日以来、狐は隙を突いては紀江の元へ現れて、結望の面倒を見てくれた。幼い結望はいつも好奇心旺盛で、元気いっぱいだった。狐姿の彼を見てはドタバタ。大きな彼を見ても無邪気に笑っていた。だけど、どうしても蛙だけは苦手のようだった。
今もそうなのかしら……? と紀江は笑う。狐もそんな結望の事が、我が子のように愛おしく感じてしまっていた。

