お茶と妖狐と憩いの場

 今から十七年前。妊娠中である結望の母は宮守の元で過ごしていた。
「紀江ちゃん、お腹は大丈夫かい?」
「えぇ、とても元気な赤ちゃんみたいです」
 紀江と呼ばれた少女――結望の母は微笑んだ。

 紀江は結望と対照的で、外へ出ることへの抵抗が無かった。家事を終わらせると村へ出て散歩をしたり、少しだけ森の中を歩いてみたり。勿論いろんな制限はあったけれど。だけどそんな彼女だからこそ、妖と出会す機会も結望よりはあった。紀江も妖葬班の事が苦手で、紀江は妖が目の前に現れる度、妖葬班に見つかってしまわぬよう抜け道を教えていた。
「此処にいてはダメよ、直に見つかってしまう」
 今日も紀江は妖らしき生き物に声を掛ける。
 しかしその妖は怪我をしているのか動けないようだった。紀江は妖葬班の気配を感じ、咄嗟に後ろの隙間へ隠した。
「そこの娘、ここら辺に妖を見なかったか」
「いえ。見かけておりませんが」
「そうか」
 幸いにも、今でいう海萊の様に妖の匂いを嗅ぎ分けれる程優れた妖葬班ではなかったようで、すぐさまその人は立ち去った。
「もう大丈夫よ、狐さん」紀江は手当をしながら言った。「……あら? とても綺麗な瞳なのね」
 それは初めて見る美しさで、結望同様、紀江も目を奪われた。狐はそんな紀江のお腹に気づいたようで、鼻をひくひくさせた。
「もうすぐ産まれるのよ。赤ちゃん、ふふっ気になる?」
 紀江は優しくお腹を撫でる。
「あ、そうだ。狐さん、赤ちゃんが産まれたらまた会いに来て。私は…きっとその時、森の奥の古民家にいるから。妖葬班の事もそこまで心配しなくて良いわ、あそこ、滅多と来ないの。約束、……一人は寂しいの」
 彼女は独りでに約束を交わし、その場から立ち去った。
 その時の狐こそ、深守だった。