その耳障りのいい声の持ち主に、香蓮は硬直した。
「ご案内、ありがとうございます」
柔和な笑みで仲居に礼を言う彼を、呆然と見つめるだけだ。
一年ほど前に見た藤山の姿形が異なる男性……彼は誰がどう見ても、香蓮の初恋の人に違いなかった。
「藤山さんの代わりに参りました。日向です」
「どうして、れいし……くん……?」
微笑んで答えた玲志はスッとその場に立ち上がり、彼女の正面へと腰を下ろす。
香蓮の動機は鼓膜に響くほど激しいものになっていた。
(これは夢? 玲志君が、目の前にいるなんて……)
艶のある黒髪、引き締まったたくましい身体、そして息を吞むほどの美貌。
さらに十年という年月が経ち、当時なかった厳格さと精悍さを備えた彼は、独特の冷たい空気をまとっていた。
「驚かせてすまない、香蓮。君の見合い相手は、俺なんだ」
この信じられない状況に、香蓮の頭はまだ追い付かない。ただ茫然とその美しい顔を見つめるしかなかった。
そんな彼女に、玲志は口元を緩め優しい眼差しを送る。
「藤山さんは、君の縁談を破棄したんだ。代わりにこの俺が、君を妻として迎えたいと思っている」
「え、妻……?」
混乱を極める香蓮の心臓がドクッと大きく跳ねる。
「ああ、俺と結婚してもらいたい」
夢ならば冷めなくていい。なんなら、このまま死んでも悔いはないと彼女は思った。
「ご案内、ありがとうございます」
柔和な笑みで仲居に礼を言う彼を、呆然と見つめるだけだ。
一年ほど前に見た藤山の姿形が異なる男性……彼は誰がどう見ても、香蓮の初恋の人に違いなかった。
「藤山さんの代わりに参りました。日向です」
「どうして、れいし……くん……?」
微笑んで答えた玲志はスッとその場に立ち上がり、彼女の正面へと腰を下ろす。
香蓮の動機は鼓膜に響くほど激しいものになっていた。
(これは夢? 玲志君が、目の前にいるなんて……)
艶のある黒髪、引き締まったたくましい身体、そして息を吞むほどの美貌。
さらに十年という年月が経ち、当時なかった厳格さと精悍さを備えた彼は、独特の冷たい空気をまとっていた。
「驚かせてすまない、香蓮。君の見合い相手は、俺なんだ」
この信じられない状況に、香蓮の頭はまだ追い付かない。ただ茫然とその美しい顔を見つめるしかなかった。
そんな彼女に、玲志は口元を緩め優しい眼差しを送る。
「藤山さんは、君の縁談を破棄したんだ。代わりにこの俺が、君を妻として迎えたいと思っている」
「え、妻……?」
混乱を極める香蓮の心臓がドクッと大きく跳ねる。
「ああ、俺と結婚してもらいたい」
夢ならば冷めなくていい。なんなら、このまま死んでも悔いはないと彼女は思った。


